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白昼夢

 

 

 長く降り続いた雨がすっかり夏を洗い流してしまったかのように、近頃は朝晩肌寒く、

とても気持ちの良い気候になってきました。

私はこの季節がシドニーの一年の中で一番好きです。

陽の光も穏やかに暖色系のオレンジ色を帯びて、

ハイドパークの芝の上に降り注ぐ木漏れ日も柔らかく暖かで、

見るものすべてがノスタルジックな写真の中にあるみたいで、

バスを運転しているといろんな記憶が蘇ってきます。

 

 私がシドニーバスでバスを運転しだしたのも、ちょうど今頃の季節でした。

シドニーバスの面接試験に晴れて合格すると、次はいきなり路上でバスの運転をさせられます。

7日間のバスのトレーニングが終わると、8日目にバスの運転実技試験。

それに合格すると、次の日から実際にお客様を乗せてバスの運転です。

たった8日間のバスのトレーニングを受けただけで、次の日からいきなりお客様をバスに乗せて運転なんて、

いくら大雑把なオーストラリアとはいえ、そんなことはありえないだろうと思っていました。

でも本当にそんなことをさせられたその日の夜は、

全然寝付けなくて何度もバスで事故を起こす夢を見ました。

 

 あぁ、突然嫌なことを思い出してしまったものだ。

お陰でまだ終点のサーキュラキーまで30分も走らなければいけないのに、

お腹がズキズキと痛み出した。そう、あの日の朝のように。

頼むから誰も私に話しかけないでくれ。

まぁ、「う~、う~、」とうなりながら運転しているバスドライバーなんかに誰も話しかけたりはしないだろうけど。

アクセルを踏み込む右足に自然と力が入る。

 私はやっぱりこの季節が一番好きだ。

 

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