7月18日(月)、シドニー市街のClarence StreetにあるDexus Placeにて、サイボウズ社・青野慶久社長によるセミナーが開催された。「サイボウズ社・青野慶久社長、オーストラリア市場進出の意気込みを語る」と題したセミナーに、さまざまな業界を代表する日系企業の経営者などおよそ50名の参加者が集まった。

サイボウズ社のグローバルビジネス戦略室長を務める青山賢氏の挨拶につづき、青野慶久社長が登壇。「サイボウズ社は日本のメディアにも変な会社だと認識されている」と自社を形容しながら、サイボウズ社のこれまでの歩みや企業文化などを紹介。「チームワークあるところに、サイボウズあり」というスローガンとともに、独自の育児・介護休業制度やウルトラワーク制度に触れながら、他社に比べ離職率が圧倒的に低いということや女性社員の割合が4割を占めることなど、自社から積極的に多様性ある企業文化を発信していることに言及した。

海外進出第一号であったアメリカでの失敗から多くのことを学び、それが現在の北米、中国、アジア各国での着実な成果につながっていること、またこれまでの海外での経験をもとに、次の進出国を考えた時にすぐにオーストラリアが浮かんだことを説明。オーストラリア市場に大きな可能性を感じていると話した。

なお、サイボウズの主力商品であるクラウドサービス「kintone」の普及に適した6つの諸条件がオーストラリア進出の決め手となった模様。

①日本語・英語・中国語の3言語に対応している
②時差は小さい方が有利(システムのメンテナンスやサポートが容易)
③組織マネジメントのニーズが強いこと(人件費の高さ)
④クラウドを受け入れるITの先進性があること
⑤日系企業が進出していると有利(ブランドの横展開)
⑥大都市が存在すること(営業効率)

青野社長の講演に続き、シドニーで行われる日系イベントの中では最大規模を誇る「祭りinシドニー」の運営母体であるMatsuri in Sydney Inc.の代表者(水越有史郎氏・遠藤烈士氏)によるサイボウズ社のクラウドサービス・kintone活用の事例紹介も行なわれた。

日豪の親睦を深めることを目的に2006年より毎年行なわれている「祭り in Sydney」の運営基盤(8名の運営委員の他、ボランティアスタッフにより運営)に触れながら、スタッフがボランティアベースのため、集まる機会がなかなか少なく、情報共有がむずかしいというこれまでの課題が引き金となりkintone導入に至ったという背景を説明。直近の事例としてkintoneを活用したウェブサイトのリニューアルについても解説した。Matsuri in Sydney Inc.のような非営利団体でも利用されていることで、kintoneがさまざまなチーム(組織)において活用できることが来場者にも伝わったようだ。

セミナー後に行なわれた懇親会では、サイボウズ社やkintoneの可能性、さらには参加者それぞれが抱える課題やオーストラリアの企業文化などにも話が及ぶなど、活発な意見交換が交わされた。ボランティアスタッフがkintoneやFacebookのパネルを手に来場者とセルフィーを撮影し、即座にFacebook「kintone community in Australia」に投稿するなど、今後さらなるコミュニティの輪の広がりが予想されるイベントとなった。青野社長の来豪により、サイボウズ社のオーストラリア市場進出がますます加速されることは間違いないようだ。
前述のFacebook「kintone comunity in Australia(https://www.facebook.com/groups/1113275808737191/)」にて新しい情報が随時発信されているので、ぜひチェックしてみよう。


青野慶久(あおの よしひさ)プロフィール

1971年生まれ。愛媛県今治市出身。
大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立。
2005年4月代表取締役社長に就任(現任)。
社内のワークスタイル変革を推進し離職率を6分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得。
また2011年から事業のクラウド化を進め、有料契約社は15,000社を超える。
総務省ワークスタイル変革プロジェクトの外部アドバイザーやCSAJ(一般社団法人コンピュータソフトウェア協会)の副会長を務める。
著書に『ちょいデキ!』(文春新書)、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)がある。

参加いただいたみなさんからのコメント

4,000社の導入実績によりAPIの精度が高くなっていってることも大きな強み

加藤靖之さん
マネージング・ディレクター/M.I.S. Australia(IT)
※kintoneシステムインテグレーター

オーストラリアではノウハウが会社ではなく個人のリソースになってしまいがちですが、みんなの知識として共有するうえでkintoneは有益だと思います。また、煩雑な業務に追われて自分の能力をなかなか活かせない環境を解消することで、よりその人の可能性を追求できるようになり、その人のモチベーションにもつながっていくと思います。
さらに、kintoneは導入実績が4,000社を超えているため、API(ソフトウェアからOSの機能を利用するための仕様)の精度が高くなっていってることも大きな強みです。長年ビジネス・アプリケーションを専門にしてきた弊社のノウハウを活かし、アプリの使い方から作り方、構成にいたるまで、業種やお客様の考え方に合わせて提案をしていきたいですね。

どこにいてもリアルタイムでプロジェクトを進めていくためにベストなkintone

作野善教さん
マネージング・ディレクター/doq(マーケティング)
※取材時はkintoneを導入して1ヵ月程度

もっと効率よく、チームメンバーも会社もハッピーで、そこからのアウトプットもクオリティが上げられる施策はないかと考えていてkintoneを導入しました。7月に東京オフィスができ、国を越えたシームレスなチームワークをつくる狙いもあります。
実務では日報に利用しています。モバイルでも確認できるし、日報があがると通知が来るので把握しやすいです。社員の悩みなども吸い上げることができるのが大きいですね。また、休暇や経費の申請にもkintoneを使い始めました。どこにいても承認やコメントができ、誰がいつ、どのような申請をしたのか履歴が残るので便利ですね。どこにいてもリアルタイムでプロジェクトを進めていくためにベストだと思っています。

社員のことに対して会社が真剣に働き出す環境を作り出す姿勢に共感

杉原圭典さん
マネージング・ディレクター/Senko Logistics Australia(物流)
※取材時はkintoneを導入して1週間程度

青野社長が社員のことを考え、会社が真剣に働き出す環境を作り出す姿勢にすごく共感しました。
業務の引き継ぎがうまくできるよう、情報共有のツールを探していたときに6月のセミナーに参加して、kintoneの導入を決めました。導入したばかりの頃は、今までのやり方でいいという人もいたんですけど、個人でできる仕事量は決まっていますし、今の物量の段階からプラットフォームを作り、さらに物量が増えたときにもそれを土台に運用していくことができる環境づくりをやっていかなければならないことを理解し、みんながkintoneに向き始めました。 現在は輸出入の工程管理で使っていて、今後は個人のスケジュール管理なども行なっていきたいと思っています。

サイボウズ社の斬新な文化、ライフスタイルを含めてもっと啓蒙してもらいたい

向井真理さん
KDDI Australia(通信)

離職率が28%から3.7%にまで激減したと聞いて、IT企業なのにすごく低い割合だと感じました。
うちの会社はメールでのやりとりが多いのですが、リアルタイムのチャットのようなコミュニケーションがより円滑になる基盤があれば、プロジェクトの提案やお見積りがよりスムーズに出せるのかと感じ、社内での情報共有のツールとしてkintoneは使えるのではと思いました。「誰でもアプリを作ることができる」ということで、すべて自分で作らなきゃいけないのかと思っていたんですけど、いろいろなテンプレートがあるとお聞きしたので、それを利用したいですね。
女性の活用や充実した育休制度をはじめとするサイボウズ社の斬新な文化、ライフスタイルを含めてもっと啓蒙していただきたいなと思います。

オーストラリアと似たような企業文化を取り入れてくれたことがうれしい

ペロー・麻美さん
ディレクター/Revo Hair Atelier(美容)

サイボウズ社は自社の方針だけでなく、国の文化を含めてみんなでいっしょに変えていこうということ、そしてオーストラリアと似たような文化を取り入れてくれたことがうれしいですね。
うちは最近、上海にもサロンをオープンしました。kintoneは日本語、英語、中国語の3カ国語に対応しているので、その点でもいいなと思います。中国(海外)とのやりとりのなかで、タイムリーな情報共有が一番大きな点だと考えています。今までの紹介事例は企業が多かったように思いますので、企業だけでなくリテールや違う分野のビジネスへの活かし方を聞いてみたいですね。大企業や中小企業だけでなく、より小さな規模のところでどのように活かせるのかが気になります。

個人の経験に頼る要素を減らすことで個人の負担が減り、会社全体の方向性が見えてくる

斉藤大さん
クライアント・エグゼクティブ/Aon Risk Solutions(保険)

最初のアメリカ進出に失敗し、そこから何を学んで先に進み、そしてオーストラリアで何をしていくのかというところに非常に腹に落ちるものがありました。
我々の仕事は前年の個人の経験をベースに今年の仕事を行なっていくことが多いのですが、今日のセミナーを通して改善の余地があるように思いました。改善することで個人の負担が減り、会社全体としての方向性も見えてくるのかなと思いました。 会社全体としてはスペシャリストが多く、自分の知識や経験を自分のカードとして使っていくのかが非常に大事なのですが、うちのチーム自体は日系ベースでやっているので、蓄積した知識や経験をみんなで共有するスタイルが合っています。そのバランスを取っていくことが大切だと思っています。

離職率が激減したのは青野社長が行なってきた制度設計の効果のあらわれ

瀧山典子さん
CEOアシスタント・人事部マネージャー/Masuya International Australia(飲食)

青野社長が3回育児休暇を取られていることや、女性の社会進出を会社の制度として取り入れ、それを利用する社員も増えてきているというお話がとても印象的でした。離職率が激減したのも、社長がそういった制度設計をやってきた効果のあらわれですね。オーストラリアの日本企業も法律を遵守するようになってはいますけど、育児休暇が最長6年取れることや、在宅勤務ができるなど、もっと女性の進出のための積極的な仕組みを取り入れていくようになれたら良いなと思いました。レストランの業務はどうしてもメールにアクセスできる時間帯が限られてしまい、グループ6店舗でタイムリーな情報共有ができたらと思っています。レストランの業務だとどのような利便性があるのか知りたいですね。

共有したくない情報に対して、どれだけフレキシブルに対応できるのかがカギ

勝田順子さん
プリンシパル/カツダ・シナジー・ロイヤーズ(法務)

今回、セミナーに参加してはじめてkintoneを知りました。もうちょっと実際のデモとかあった方が、自分のところで実際に使うときのイメージがしやすいかなと思いました。実際に導入するかどうかは、もうちょっと詳細がわかってからですね。
私の事業は弁護士事務所なので、共有されてしまうと困る情報も多くあります。そのあたりがどれだけフレキシブルに対応できるのかということが大きいと思います。また弁護士業界の中ですでに使っている情報伝達・共有ソフトがあるので、既存のものと比較するための情報がほしいですね。製品自体の性能はもちろんですが、他の製品となにが違うのかを比べる事例や、弁護士事務所で実際に使っているところがあるのかどうか知りたいですね。

日本で子どもを育てながら仕事をするということに社会使命を感じる社長は多いはず

柏木由人さん
ディレクター/Facet Studio(建築)

少子化社会に対して一人ひとりの日本人の意識を変えることは、一瞬遠回りかなと思ったんですけど、「急がば回れ」なのだなと感じました。日本で子どもを育てながら仕事をするということに社会使命を感じる社長は多いと思いますし、青野社長のやり方はいいと思います。
僕は設計(建築家)をやっているので、一般的会社の事務作業の効率化のために使うのとは少し異なります。クリエイティブな組織のなかでkintoneがどういう風に利用することができるのか、いろいろな業界の特殊な事情にあわせてどんな風にカスタマイズできるのかっていうことを聞いてみたいですね。数あるクラウドサービスとどのような点で違うのかをもうちょっと知りたいです。

過去の記事