冠婚葬祭

修羅場に遭遇

♦修羅場に遭遇♦

先日ウェディングショーでハワイに訪れた時のことである。

夕方過ぎにウェディングショーの撮影を終えた私は、現地にお住まいのスタイリストK子さんとワイキキのメイン通りカラカウア通りをウロウロしていた。

 

タイマツが灯されるメインストリートでは、様々な大道芸人が観光客を相手にパフォーマンスしていて、道端ではアボリジニのディジリドゥーの演奏こそは無いものの、お約束といえる微動だにしないマイケルジャクソンやピエロやファイヤーショーもあった。

その他にも、突然でっかいオウムを観光客の肩に突然乗せたかと思うと、 

”しゃーーしぃーーーん!”

と怪しい日本語で観光客に近寄っては、その人のデジカメで写真を撮り、その後お金を請求する老舗芸人も相変わらず健在で、10年ぶりのハワイを体感していた。

その中で私達の目を引いたのは、似顔絵を書いているひげもじゃのじいさんだった。

アーティストチックな見かけのひげもじゃじいさんは、アルプスのハイジのおじいさんを思わせるヒゲヒゲの風貌で、折りたたみイスに座りながら中年女性の似顔絵を鉛筆で描いていた。 

彼の座るイスの周りには、彼の作品と思われる様々な似顔絵作品がおいてあって、定番のトムクルーズやレーガン元大統領を始め、シルベスター・スタローンやマドンナ、新しいところではパリスヒルトンなどもあった。 

それに加えて、何故か元オウム真理教の麻原しょうこうさんの似顔絵もあり、その麻原さんの後ろでは上祐氏が両手でピースサインしている似顔絵まで飾ってあったのを確認した私達は、彼の想像力とオリジナル性、そして微かな危険性も感じていた。

そんなのどかな雰囲気の中、私達の横に日本人の新婚さんカップルが立ち止まった。 

その新婚さんは、最近見られなくなった”全身ペアルックカップル”で、Tシャツやパンツなどは勿論の事、靴下や靴、そして手に持っているアイスクリームの色や免税店の袋までもペアであったのにはさすがに驚いた。

そんな世紀一代完全装備ペアルックを真横に確認した私にとって、もはやひげもじゃじいさんなどは芸人ではない。

私の横目視線はますます釘付けとなった。

そんなラブラブな新婚さんの奥さんが、ヒゲもじゃじいさんの似顔絵作品を見ながら、旦那さんに突然こう言った。

「ねぇーっ、これ描いてもらおうよーー!前の旦那と来た時にもやったのーー、これーー!」

私とK子さんの耳がダンボちゃんになったのは、この瞬間からである。

”へっ・・・・・? ま、前の旦那ともやったの??? そして今から新しい旦那と・・・・?” 

私とK子さんは、今の会話が聞き間違えであったことを願いながら、横目でチラッとお互い目を合わせると、K子さんは私の目をじっと睨んで深くうなづいた。 

”もっと詳細を知りたいから、今は黙ってこの人の話をよーく聞きましょうよ。 わかった?”と、言ったかはわからないが、勝手にK子さんのうなづきを解釈した私は、黙って旦那さんの方に横目を流してみた。

「はぁーーっ??旦那?? おーーいぃーーー、お前ぇー、マジかよー?なんだよぉー、それぇーー?旦那なんか聞いてねーーぞーー!なぁーーー??」 

そう言って旦那さんが奥さんの両肩をつかみ、強く揺さぶったのを横目で確認した。

私達の目にひげもじゃじいさんは、もはや居ない。 この修羅場をしっかり確認したいという気持ちからか、タイマツの灯る夕方のハワイにサングラスをかけ始めたのは、K子さんだ。 遂に横目では我慢出来ず、色眼鏡の向こうから”ガン見”するつもりだ。

私もこうしてはいられないと、先ほどマーケットで購入した”D&G”だか”P&G”だかわからないサングラスをカバンから取り出し、同じようにかけて”ガン見”に入った。

”おまえぇ、ちょっとこっち来いよぉーー! なぁーーーー!!”と、

乱暴に奥さんの腕をグイっと引っ張り、ひげもじゃじいさんの観衆から離れたがる旦那さんは、嫌がる奥さんを引きずる様に通りの脇に連れて行った。

”女性に対して乱暴はいけないよ”と、

通りがかりの親切な外人さんがと一度は旦那さんを止めたが、完全ペアルックの二人がカップルである事は、”100メートル先からでも一目瞭然”という理由からかどうかはわからないが、それ以降は誰も暴れん坊カップルを止める事無く、カップルはあっと言う間に人ごみへと消えていった。

私とK子さんは、星空が広がるハワイの空の下でサングラスをすっと外し、”任務完了”と言わんばかりの満足感と空腹感をしっかり体感し、つまみと言わんばかりの話のネタを胸にいっぱい抱えて、バーに直行したのだった。

シドニー・クリエイティブフォトグラフィー

Sydney Creative Photography

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