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SHIATSUで医療へ恩返し! 手技で世界を療したい/中川元

日本で鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師の国家資格を取得し、豊富な知識と技術をもとに、オーストラリアで生活する人の身体の不調を整える中川元さん。飾り気のない満面の笑顔と強い信念、確かな手技が持ち味だ。

「患者さんの身体を治してあげようなんて思わない」。一見疑問に思うその発言の真意は幼少期に重篤な交通事故で、患者側を経験したからこそ生まれる責任感と思いやりに由来していた。

シドニーに来て1カ月。日本での安定した環境を手放して30歳の”ギリホリ”渡豪をしたことに迷いはなかったという。自ら踏み出さないと分からない海外での感触を確かめながら、船上鍼灸師になって日本の後輩らへ可能性を示すという夢に向かって走り始めた。

自己紹介をお願いします。

中川元(なかがわげん)、神奈川県出身の31歳です。日本で国家試験の鍼灸師とあん摩マッサージ指圧師の資格を取った後に、鍼灸専門学校の教員免許を取得するためにさらに2年間学校に通いました。

シドニー湾でも豪華客船が停まっているのをよく目にしますが、鍼灸師は仕事で豪華客船に乗ることができるんですよ。ずっと船上鍼灸師を目指していたので、日本で英語の勉強をしていましたが、週1〜2回の英会話だけでは満足できなくて。

教員になるための学校を卒業するタイミングで、自分の中で「なにかを変えなきゃ」と思っていたときに、シドニーで指圧の求人が出ていることを発見しました。そこからは勢いで「よし、行こう!」と(笑)。

31歳の誕生日を迎える1カ月前に渡豪したので、本当にギリギリのワーホリになりました。

鍼灸・あん摩マッサージ師を目指したきっかけは?

小学生の頃に交通事故に遭い、ICUで1週間程治療を受けていたんです。そこで医療にすごくお世話になったので、その恩返しをしたかったというのが医療の道に進んだ最初のきっかけです。

でも、患者さんの身体にダメージが残らない方法で医療に携わりたくて。外科だと傷が残っちゃうし、内科では薬の副作用が出る可能性がある……。そこでたどり着いたのが患者さんの体に負担が少ない鍼灸・あん摩マッサージ指圧でした。

鍼灸は医療行為なので免許が必要ですが、良くも悪くも揉んだり押したりして体を整える手技療法は、免許がなくてもできてしまいます。日本の国家資格を持っている僕も、オーストラリアの法律上は鍼灸師ではなく、セラピストという肩書きになります。

ただ、セラピストといっても専門教育を受けているので、知識・技術には自信を持っています。施術する上で自信って相手に伝わるもの。オーストラリアでは言葉の壁もありますが、日本で経験を積んできたという自信を持って臨むと、自然と患者さんにも伝わるものがあるようです。

主にどのような施術をしていますか?

主に指圧とあん摩を使って施術をしています。それに加えて骨盤矯正や関節を動かす手技を取り入れています。例えばデスクワークとかで肩甲骨の内側のコリがひどい方とかは、筋肉だけ押しても結局関節が固まっていると根本的な解決にならないんですよ。そういう場合は体をもみほぐした後に、関節を動かすようにアプローチします。

患者さんに普段からできる運動や簡単な関節を動かすストレッチを指導して、日頃の生活に取り入れてもらうようにしています。最初はもちろん通ってもらいたいのですが、患者さんにはずっと施術を受けるのではなく、そのうち卒業してほしいんですよ。悪くなったらまた来てね、というように。

日本でも同じように指導をした結果、徐々に変化が見られるようになった経験があるので、こちらでも積極的に自宅でできるセルフケアの方法を伝えるようにしています。

治療を受ける方からは、どういった悩みが多いですか?

一番多いのは首・肩こりや腰痛の悩みです。指圧ってすでに海外でも「SHIATSU」として認知されていて、「ジャパニーズ指圧」って言うと、それだけでブランド力があるようです。日本人の”おもてなし”だったり、日本人が施術をするというところに価値を見いだしていただいている人もいます。

オーストラリア人と日本人での違いが面白くて、例えば日本人は強く揉まれるのを好む人が多いですね。オーストラリア人は健康意識が高い感じがします。お客さんの年齢層は幅広くて、下は中学生くらいから上は70代くらい。お母さんがお子さんを連れて来院することも多いですよ。若い頃から体を整えようとする姿勢はなかなか意識が高いなと思います。

日本でもオーストラリアでも貫いているこだわりは?

お客さんが不調を訴えている箇所を重点的にやることですね。プロとして診ているうちに、患者さんが肩が凝っていると言っていても、原因がほかの場所にあったりするのが分かってアプローチの比重が変わっちゃったりするんですよ。

それで症状が良くなったとしても、患者さんは「肩をやってほしいのに、ほかの箇所が多かったな……」という感じでモヤっとした感情が残ってしまいます。カウンセリングをしたうえで、お客さんの要望にきちんと応えるようにしながら、症状を改善できるように持っていくことも必要です。

僕は基本的に「患者さんを治してあげよう」と思わないようにしていて。過去に自分の持っている力を超えた施術をしてしまい、失敗したこともありました。もちろん良くなってほしいと思っていますが、自分の持っている知識と技術を患者さんに最大限提供することが、僕のできる全てだと思っています。

患者さんが求めるものと自分が提供できるものの認識が違うと、事故に繋がる恐れもあるので、このスタンスはシドニーでもこだわっていますね。施術には自信を持っているので、もちろん症状は良くなりますが、それは結果で。僕は僕のスキルを提供することに責任を持って取り組んでいます。

オーストラリアで働く(生活する)なかで感じることは?

今はどちらかというと、どこまで自分の手技が通じるかっていうのを試している期間ですね。だからなるべく患者さんに接していろいろやってみたいという気持ちがあります。でも徐々にこっちで施術をしていて骨盤矯正の効果を実感してもらえることが増えてきて、それは少しずつ自信になっています。

オーストラリア人はすごく優しいですよね。オーストラリアに来て3日目くらいの時に、ブルーマウンテンに行ったんですよ。その帰りに「どこから乗ってきたんだっけ?」と、シェアハウスの最寄り駅が分からなくなっちゃって(笑)。駅員さんに住所を伝えたら、わざわざスマホを使って帰り方を調べてくれました。

来院されるオーストラリア人も、僕が得意でない英語でなんとか伝えようとしていたら、きちんと聞こうとしてくれます。どれだけ技術や知識に自身があっても、英語の不安を抱えている人は多いと思うので、これはオーストラリアでワーホリをチャレンジするメリットだと感じました。

仕事の息抜きには何をしますか?

自分の身体のメンテナンスをします。日本では月2回くらいは治療を受けていました。鍼灸師ですって自ら言う時もあるし、言わない時もあります。業界のあるあるなんですけど、わざわざ鍼灸師って言わなくてもお互いに分かるんですよ。ちょっとした会話でも「この人、専門の人かな……?」となるので。

もちろんセルフケアもします。でも背中や脈、ベロ、おなかは自分じゃ診れないので他の先生にやってもらうことで客観的に状態を把握できます。先生によって全然やり方も違うので、新たに発見もありますし、常に勉強していかなきゃっていう部分はあります。

あとストレス発散もかねてボクシングをやっています。肉が好きなので食べ歩きもかねてぶらぶらしたりと、出かけたいところがたくさんあるので時間が足りませんね(笑)。

今後の展望は?

オーストラリアの英語環境で頑張った後は、豪華客船の船上鍼灸師の資格を取得して、2020年の東京オリンピックの時には、船の上で勤務できるようになりたいですね。

豪華客船は僕が学生の時はそんなに認知されていなかったのですが、今はそこを目指す人がすごく増えていて。日本の免許を持っていれば世界中で鍼灸ができるんですよ。クルーズ船が停泊する国々で鍼灸ができる唯一の特例。そこにチャレンジしてみたいなって。

その後は、鍼灸専門学校の教員免許があるので、先生として日本に戻りたいです。国家資格を取得するための知識や技術を教えることだけでなく、海外で自由に働いて日本に戻った鍼灸師のロールモデルとなり「こういう道もあるんだ」と、選択肢を増やす手助けをしたいです。

もしワーホリに行くか悩んでいる人がいたら、まずは自分を信じて飛び出すことが大切かもしれません。自分にとってほんとうに必要な環境は、一度手放しても必要ならブーメランみたいに戻ってくると思うので。

取材・文:村上 紗英

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