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「リバーズ・エッジ」行定勲監督 単独インタビュー/日本映画祭

日豪交流の一環として1997年にスタートし、今や海外で催される日本映画祭としては最大級の上映作品数と観客動員数を誇る「Japanese Film Festival 2018/日本映画祭」が、11月15日(木)からシドニーのイベント・シネマ(ジョージ・ストリート)で開催中。

「River’s Edge(リバーズ・エッジ)」から国外での評価も高い行定勲監督が、20日(火)の映画上映後、Q&Aセッションに登壇した。

90年代を生きる若者たちの欲望や孤独感、もがきながらも「生きる」姿を鮮烈に描き出し、岡崎京子の伝説的名作となった同名漫画「リバーズ・エッジ」。原作の出版から20年以上の時を経て、主演に二階堂ふみを迎え、行定勲監督によって実写映画化された。日本では2018年2月に公開され、第68回ベルリン国際映画祭のパノラマ部門で国際批評家連盟賞を受賞している。

JAMS.TV編集部では、行定勳監督に単独インタビューを決行。なぜ、今、映画化に至ったのか。原作への強い想いや国内外で自身の監督作品が上映される心境など話を伺った。

「River’s Edge(リバーズ・エッジ)」行定勳監督 単独インタビュー

ー「リバーズ・エッジ」原作者の岡崎京子さんとは公開後にお話されましたか?

完成した時に岡崎さんにお会いして、岡崎さんもすごく喜んでくださいましたね。「リバーズ・エッジ」は岡崎さんにとっても特別な作品だったみたいで、実写化にはいろいろなことを懸念されていたと思うんですよ。

二階堂ふみの「リバーズ・エッジを映画にしたい」っていう情熱なしには映画化はなかったので、彼女は企画者に近い。彼女の想いを受け入れて映画にしたっていうのが僕の役割だった。そういう意味で考えると、出版から四半世紀たって、二階堂のような現代の子たちが自分が描いた漫画に触れて熱狂していることを、岡崎さんは喜んでいたと思う。岡崎さん自身に喜んでいただけたということが伝わってきて良かったですね。

ー漫画が発売された当初、映画化は考えましたか?

考えてないですね。出版された1994年当時に自分も読んでいて。その頃は助監督をやっていて、僕の先輩の監督たちがこぞって映画化したいって言っていたんですよ。「リバーズ・エッジ」はかなり影響を与えていたし、もっと言うと今の時代に活躍しているクリエイターたちに影響を与えていると言っても過言ではないですね。だからこそ映画化するというのは非常に大仕事で、やり方によっては汚してしまう可能性もあるんですよね。

そういう人気で伝説のある漫画を映画化すると、大概ブーイングを受ける。僕自身もそういう気持ちがよくわかるので、どうかな~と思いながら。本当ならあんまり触れたくない原作だったんですけど、やらないか?って言われて断った時点で、多分他の誰かがするわけじゃないですか。そう思った瞬間にやっぱりそれだったら自分がやった方がいいやと思った。

ー映画化にいたったのは、二階堂ふみさんからの提案だったからというのもあるんですか?

二階堂ふみとは仕事がしたいと思っていて、前々からそういう話はしていたんですけど、僕の方が題材を考えかねていたところに彼女から提案されたっていうのもある。それもあるけど、やっぱり何よりも岡崎京子ですよね。僕は漫画の映画化はしないって言っているんだけど、何で今回映画化したかというと、僕は岡崎京子の作品を文学的にとらえているんですよ。

僕のアトリエに、いつか映画化したいなって思っている小説が並んでいるんですね。岡崎京子の本は漫画なのにその中に同じように並んでいて。岡崎さんにとって最終表現が漫画だっただけで、非常に文学的で、映画的で、いろんなカルチャーに学んで描かれている方なんだと思う。だから今回「リバーズ・エッジ」も映画化できたのかなと思う。

ー映画化にあたり重要視したところはどんなところですか?

僕は映画化があんまり賛成じゃないし、他人がやっているのを見ていると成功した作品はほぼないって思う。映画的な飛躍を試みたことが裏目にでていたりするんですよね。かといって、映画人としては完コピみたいなことはしたくない。自分がどうこの作品に向きあうかっていうところは、かなり長い間考えて、撮影に挑んでいます。

岡崎京子の表現をさまたげない、そこに自分の表現を加えて純度を下げたくない。その結果、脚本は人に任せました。漫画はもちろん昔読んだけど、今回は一回しか読んでいなくて。脚本を書くっていうことは、何度も読んで原作と向き合ってしまうんですよ。そうすると多分、完全に同じものしか作れないだろうっていう気持ちがあったんで、自分で書けたんですけど、書いてもらおうと思って。

岡崎京子と自分が高校生の時にもろ読んでいた脚本家を選んで、彼女も「リバーズ・エッジ」の原作が自分のバイブルでもあるって言っていたので。そうすればきっと純度も下がらない。書いてくれたものに関して僕が映画としての飛躍を何か加えるとすれば、インタビュー。

ー劇中では、物語の途中でメインキャストにインタビューする演出がありますね。

俳優たちが現代を生きている若者たちですよね。90年代の若者たちじゃないんですよ。そこはある種僕の演出で彼らを90年代の若者にしていくんだけど、一番知りたかったのは、俳優たちがどれくらい純粋にこの作品に共鳴しているかで。それを知るために、役者である彼らにインタビューをしたんです。

彼らには役としてカメラの前に立ってほしい。ただ、インタビューの内容は中身がないし僕がずっと思いつきでインタビューしてる。役者としての情報は少ないし、自分ではない他人としてだけど、どっかで自分自身でもないといけないんですね。台本はない、覚えることはないけど、自分がでてこないといけない。

役を考えるきっかけにもなっているし、90年代の彼らはこうだけど今の自分はどうか。その延長線上に自分のキャラクターが語っていないといけないわけで、非常に難しい高度なインタビュー。それをやったことが、唯一岡崎京子と「リバーズ・エッジ」が何故、今、映画化されたのかというとこに繋がるんではと思った。

ーインタビュー以外に映像作品だからこそ表現できた部分はありますか?

音とか音楽ですね。楽曲的には1曲だけなんです。それを繰り返しかけているだけで、場面をあおるような、悲しみをいざなうようなものをまったく必要としていない。もっと言うならば、音楽もいらなかったかもなってくらい。とはいえ、音楽は絶対必要だったんですけど。

音楽の役割というのが、川が目の前に流れていてそのまま流れていっちゃうような、効果音の気分で音楽をつくってもらったんで、それが決定的になるまで結構大変だったかもしれないですね。

ー映画の登場人物で監督が一番共感できるのは誰ですか?

(少し考えて)僕は山田くんかな。山田くんは、人の話もあんまり聞いてないし、他人に何を言われても、自分の美学とか生き方といった自分にしか興味のない人で。自分がどう生きるかっていうとこだけに目を向けているから、苛立ちもしないし、逆に何やっても満足しない。僕はいじめられなかったけど、そこは僕の方が要領良かったんですね。

“何かを渇望しているけど、他人が思っている次元とは違うものを僕は渇望しているんだ”というところは、若いころの自分を見ているような感じがする。人を見下しているように見えるけど、自分は弱者でマイノリティーなのだと感じている。そんな人は、ちょっとでも自分の目線になった人にはやさしいんですよね。それが山田にとってハルナっていうね。

ー映画の中で注目してほしいポイントは?

そうだなあ。いや、特になくて。“90年代という一つの日本の時代が、現代の若者たちとどう繋がっているか”というのを僕はすごく知りたかったんです。結果的には、青春のあり方というか、死と向き合うとか、考えなくてもいいものに気づいてしまった。関心を寄せた人間だけがある種、苦しむ。そういう体験をして欲しいなって思ったんですよね。

日本では、若い俳優とかクリエイターの人たちからそうとう熱狂されていた。そういった意味では、表現者とかカルチャーにたいして興味がある人たちにより受け入れられた映画かなと思う。

ーなるほど。オーストラリア・シドニーで上映が決まっていかがですか?

僕、街を歩くのが好きで、シドニーの街を昨日と今日でかなり歩いて。歩くことで発見することってあるんですよ。何を1番発見するかというと、幸福度が分かるんですよね。オーストラリアは幸福ですよ。間違いなく幸福です。

やっぱり人の話を聞いていてもそうだと思うし、経済がうまく回っているから落ちることを知らない。聞く話だと賃金は高いし、休みをきちっと取るのも明確で主張もされている。でも、それによって物価も高い。普通は悪循環に思うし、日本なら悪循環に落ちていくんですよね。日本は経済を回すために物価を安くして、賃金も安い。みんな抑えられたみたいになっているとかね。

日本とオーストラリアは、ま逆だからかなあと思いつつ、ふと不安に思うのは、この幸福な国の人たちが「リバーズ・エッジ」を見て、何を思うだろうっていう(笑)。何でこんな苦悩をしなきゃいけないんだろう、生きるためにって。

ーた、たしかに(笑)。

ヨーロッパでも、何で若い子たちがこんなことするの? 日本ではこんなことが起こっているんですか? と言われて。まあ、起こってることには起こってますよ。日本人は隠すのが大事で、変にひけらかさず水面下で全部やってますよ。悪いことと重々承知でやるのが日本人。ちゃんとしてるからこそ、あれだけハードなことをしてるっていう風に話すと、また驚かれるんですけどね。

オーストラリアの人は、自分の人生を楽しもうとしている感じがすごくするんです。オペラハウスの周りを歩いていたりすると、カモメまでがいじきたなくてですね。少しでも何か狙おうとしてるっていうね(笑)。生命力を感じるし、みんな楽しそうにしているなっていう。

自分たちの権限とかキッチリ休むとか、お金も休みの日なら倍額もらわないとやってられない! みたいな主張とか、それが全部生活に反映されていて、だから休む時はめいっぱい休むし、会社のことは気にもしない。“ちょっと電話してくれればいいのに、休みの日はできないって言われる“って話を聞いた時に、この国は見た通りなんだなと思った。そんな国にどうやってこの映画が写るんだろうなって思うし、それが面白いなって思う。

ー最後に、オーストラリアに住む日本人に向けてメッセージをお願いします。

昔ね、「世界の中心で愛をさけぶ」のラストシーンだけ撮りに来たんですね。でもその時はアボリジニとの話だった。オーストラリアって良い国で、街を歩くと異国から来た人たちもたくさんいて、多国籍で、やる気やチャンスに満ち溢れているこの国で映画を撮ってみたいと思う。

こういう日本とは違う国で、日本人のカルチャーの一つでもある「死」や「生きる」とか一つのことを掘り下げて向き合うっていうものが伝わって、何かを考えるきっかけになってくれるといいなって思う。日本映画のほとんどはそういうものだと思うので。日本の人たちが日本の映画に触れて、できればオーストラリアの友達に広めてほしい。そうすれば日本映画も広がっていくかなと思う。

ー行定勳監督、ありがとうございました!

取材:岩瀬まさみ、村上紗英 写真:徳田直人 文:岩瀬まさみ

行定勳監督 Q&Aセッション/日本映画祭

オーストラリアの日本映画祭では、毎年日本から上映作品を手がける監督や出演俳優がスペシャルゲストとして登壇。日本よりも身近な距離感での交流が可能になるQ&Aセッションは、同映画祭の魅力の一つ。

「River’s Edge(リバーズ・エッジ)」上映後、行定勲監督がQ&Aセッションに登場。映画を見終えたばかりの観客に向けて「River’s Edge(リバーズ・エッジ)」が映画化に至った経緯や制作秘話などを語った。印象的だったのは、観客からの質問に答える一幕。

―観客

日本の映画は社会問題や社会からの圧力、特に若者の間での問題についてうったえている作品が多いように感じます。日本人の監督として、行定勳監督の作品は、社会問題に対する解決策の提示ですか? それともエンターテイメントですか?

―行定勳監督

人間の社会、僕らの生きている社会はあいまいなことがすごく多いんですよね。一番あいまいなのは「愛」。あと、生きるということ、「生と死」。それらを掘り下げていくと、恐らく迷宮入りすると思うんですよ。

多分社会に強く何かをうったえているというよりは、それを考えるきっかけを作るのが僕らの仕事だと思っていて、だから映画もあいまいに作りたいんです。そのあいまいな部分を、たとえば何でわからなかったのかということを、みんなで話し合うきっかけになるのが、僕は映画だと思っています。

行定勳監督

1968年熊本県出身。1997年に長編映画監督としてデビュー。2001年には「GO」で日本アカデミー賞最優秀監督賞を受賞。2004年公開の「世界の中心で愛をさけぶ」は興行収入85億円の大ヒットを記録。その他「北の零年」「春の雪」など多くの話題作を手掛ける。映画監督としてだけでなく、脚本家、演出家としても活躍。2010年公開の「パレード」と2018年公開の「リバーズ・エッジ」では、ベルリン国際映画祭において国際批評家連盟賞を受賞している。

River’s Edge(リバーズ・エッジ)

岡崎京子の伝説的名作となった同名漫画を、若手俳優の中でそれぞれ圧倒的な存在感を放つ二階堂ふみ、吉沢亮の出演で映画化。監督は、「パレード」「ピンクとグレー」などでも若者の複雑な心情描写に向き合ってきた行定勲監督。原作者・岡崎との交流も深い小沢健二が、物語のラストを爽やかに包み込む主題歌を担当した。河原に放置された死体が繋ぐ若者たちの絆や痛みや叫びを浮き彫りにするエッジ―な衝撃作。

Japanese Film Festival 2018/日本映画祭

「Japanese Film Festival 2018/日本映画祭」は、11月15日(木)から25日(日)までの11日間シドニーのイベント・シネマ(ジョージ・ストリート)で開催中。

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Japanese Film Festival 2018/日本映画祭

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