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豪州最大の日本酒イベント「酒フェスティバル」が今年もシドニーで開催

JAMS.TV Pty Ltdによる日本の祭典「オーストラリア酒フェスティバル(Australian Sake Festival)2025」が、7月のメルボルンに続き、2025年9月27日と28日の2日間にわたって、昨年と同じくシドニーのCarriageworksで開催された。

本フェスティバルは「日本の酒・食・文化・観光」分野のオーストラリア人気において、ひとつの分野に特化した発信ではなく日本文化を総体的に伝えることで、オーストラリアに住む人々の日本への興味と知識を広げることを目的としている。

今年で設立20周年を迎えたJAMS.TV Pty Ltdが主催し、日豪から多数の日本酒類の酒蔵・酒造メーカーをはじめ、小売店、日本食店、日本の伝統工芸品の製作・販売店、日本酒の専門家などを招くことで、多彩な切り口から参加者が日本文化を日常的に愉しむ機会を増やしてきた。

オーストラリア国内における日本産食品・製品市場やインバウンド観光、さらには芸術や文化交流の分野を通じて、その存在感を年々拡大してきた「オーストラリア酒フェスティバル」。今回のシドニー開催で、同イベントは4回目を迎えた。

シドニー会場には、日本から来豪した酒蔵をはじめ、日本酒専門業者38社、日本食品の卸・小売業者、飲食店などを含む計81団体が出展。2日間で、昨年より約3割増となる約8,000人が来場した。なお、7月にはメルボルンでも開催されており、今では複数都市の「酒フェスティバル」を巡る熱心なファンの姿も見られる。

今年も昨年同様、2日間にわたってセッションを分けて開催され、開場直後の入場もスムーズに進行した。吹き抜け会場の広々とした空間を活かしたブース配置となり、イベントの規模やクオリティは昨年以上に向上。来場者・出展者双方にとって、より快適で充実したイベント体験を提供することを目指した。

シドニーの初夏の暑さも比較的やわらいで感じられる空間で、各セッションの来場者はゆとりをもって多数のブースを順に回ることができたようだ。また、日本酒をまとめて購入する来場者にとっては、丈夫でマチのある公式トートバッグが重宝された。中にはトロリーバッグを持参する常連客の姿もあり、お目当ての酒を片手に、ブースの出展者や同行者とにぎやかに語り合う光景があちこちで見受けられた。

会場奥に設けられたフォトブースでは、多くの来場者がフォト扇子や番傘などの小道具を手に、思い思いに記念撮影を楽しんでいた。「オーストラリア酒フェスティバル」では、イベントに合わせて和装で訪れる人も多く、会場にはカラフルな着物や個性的な羽織に身を包んだ来場者の笑顔があふれていた。

酒サムライのSimone Maynard氏による日本酒セミナーは、これまで以上に充実した内容となり、参加者が日本酒を通じて日本の食文化や伝統への理解を深める場となった。メルボルンを拠点に活動する日本酒のエキスパートであり酒サムライでもあるMaynard氏が、日本酒のテイスティング方法や選び方、さらには食事とのペアリングに特化したセミナーを担当したことで、幅広い層の参加者から高い評価を受けた。

セミナーでは、日本酒初心者でも親しみやすい基礎講座からスタートし、ワインと日本酒の製造過程の違いや共通点、食事とのペアリングの考え方までを学べる内容が提供された。また、日本酒愛好者向けにはテイスティングチャレンジも実施され、参加者は自らの感覚を確かめながら日本酒の奥深さに触れることができた。

会場内には、品評会「オーストラリア酒アワード(Australian Sake Awards 2025)」の栄えある受賞酒一覧も展示され、今回も多くの来場者の注目を集めていた。毎年、このアワードの受賞酒は来場者が日本酒を選ぶ際の一つの指標となるため、出品者たちも一層力が入るという。今回は、日本各地の酒蔵やオーストラリア国内の代理店から、計182点もの日本酒が出品された。

また、イベントに先立つ26日には、シドニー市内のホテルで祝賀会が開催された。受賞した日豪の酒蔵関係者をはじめ、オーストラリアの日本酒インポーターや小売業者、飲食業界の専門家、日本酒の有資格者などが一堂に会し、上質な日本酒と料理のペアリングを楽しみながら、日本各地の酒蔵が持つ情熱と技術に触れる特別なひとときを共有した。

今年新たにローンチした、日本産酒類を中心とするオンラインストア「Sake Selector」のブースにも多くの注目が集まった。同ストアは、イベント来場者に対して年間を通じて多様な日本酒、焼酎、リキュールなどを手軽に購入できる環境を提供するとともに、オーストラリアの日本酒コンテスト「オーストラリア酒アワード」受賞酒の認知拡大と販路拡大を目指して開設された。日本酒の魅力をより多くの人々に伝えることを目的としている。

オーストラリア国内の15社以上の日本産酒類インポーターと提携し、安定した供給体制と国内最大級の品揃えを実現している点が強みだ。出品されている商品はいずれも「オーストラリア酒フェスティバル」の出展者と連携しており、信頼性の高いサプライチェーンを構築しながら、オーストラリア最大規模の日本酒セレクションを目指している。

会場内のブースでは、日本酒に関するパネル展示やクイズラリー形式の企画を実施。来場者は試飲を楽しみながら会場を巡り、クイズに回答しつつ日本酒の知識を深めていた。ゴール地点となるブースでは、オンラインストアで使える割引特典も用意され、親子連れや友人同士など、さまざまな来場者が笑顔で参加する姿が見られた。

イベント2日目の各セッション間に実施されたBtoB商談会では、日本産酒類のオーストラリア市場におけるさらなる販路拡大を目的に、多くの商談が行われた。日本酒をはじめとする日本産の酒類や食品の取引に関心を持つオーストラリアの卸売業者・小売業者・飲食店関係者らがブースを訪れ、出展者と直接商談を交わした。

イベントを軸とした文化発信と訪日観光促進の取り組み

7月にメルボルンで開催された「オーストラリア酒フェスティバル」と同様に、日本酒や日本食、日本文化といった本イベントの魅力は、シドニーでも幅広い層から支持を得ている。これらの来場者層は、訪日観光に積極的な層と重なっており、訪日観光客としての潜在的なターゲット層に直接アプローチできる貴重な機会となっていることがうかがえる。

イベントの目玉である試飲や各種体験は、昨年に引き続き高い評価を得た。多くの来場者が日本酒の試飲や屋台での食事、日本酒類の購入を楽しんでおり、特に、普段は出会うことのない出展者との会話や、日本酒について学ぶ体験に価値を感じている様子が見られた。こうした出展者との交流は購買行動に大きく影響しており、教育的要素を楽しむ来場者も多いことから、日本文化の発信やファン育成、さらには販促の場としての可能性も広がっている。

観光ブースや自治体ブースでは、持ち帰り可能な観光情報パンフレットや、訪日を後押しするクーポン、チケットなどが特に好評であった。展示内容の案内や導線設計をさらに工夫することで、より多くの来場者を引き込み、効果的なPRが期待できるだろう。また、サイコロを振って景品が当たるといったエンタメ要素も高く評価され、楽しみながら情報に触れられる仕掛けが好まれている。

日本への関心を持つ層は一定数存在しているものの、イベント時点で具体的な訪日時期を決めている来場者は多くない。しかし、訪日意欲が非常に高い層に対しては、地理的な情報や店舗などの具体的な情報を直接提供するだけでも、今後の旅行計画を立てる際に有用な参考資料として活用されることが期待される。

日本食ブームの広がりとともに、日本酒の輸出量は年々増加しており、海外での関心も高まり続けている。日本酒造組合中央会によると、2023年の日本酒の世界全体の輸出額は前年比5.8%増の434.7億円、輸出量も6.4%増の3.1万キロリットルと拡大傾向にある。

なかでもオーストラリアは市場規模こそ世界第8位だが、輸出額が前年比21.4%増と著しい成長を見せており、今後の有望市場として注目されている。実際に、「旅行中に日本の酒を飲んだことがある」と回答したオーストラリア人観光客は7割を超え、訪日回数が増えるほどその割合も高まる傾向がある。

さらに、2024年12月には「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産に登録され、その価値が世界的に認められた。また、ワイナリー文化が根付くオーストラリアにおいても、歴史的背景と伝統技術を持ち、サステナブルな要素を兼ね備えた日本酒造りは、親しみやすく魅力的な文化として受け入れられつつある。

このような流れを受け、日本酒類はインバウンド市場のみならず、日豪両国の地域経済においても新たな可能性を秘めた「文化コンテンツ」として、その成長が期待される。

一方で、有名銘柄の知名度はオーストラリアでも高まっているものの、それらが日本のどの地域で造られているのかを認識している人は多くない。日本文化に関心の高い層が集まるイベントを通じて、より多くの来場者が日本酒の味わいを楽しむだけでなく、その酒が生まれた土地の風土や文化にも興味を持つことで、日本酒への理解と愛着がより深まるだろう。

出展している酒蔵の多くは日本の歴史的な街並みに溶け込み、周辺には観光地や温泉地も多いため、その地域を訪れる新たな楽しみとしての広がりも期待できる。

今年のメルボルンでの「オーストラリア酒フェスティバル」では、来場者の約9割が訪日意欲を示しており、48%が「確実に訪問予定」、40%が「おそらく訪問予定」と回答、訪日観光の促進という観点からも大きな可能性が示された。日豪の架け橋として、イベント会場では日本酒のみならず、酒蔵の魅力や地域文化の特色を積極的に発信し、それぞれを観光資源として認知させることで、オーストラリアからの訪日観光客のさらなる誘致につなげていきたい。

「オーストラリア酒フェスティバル」は、アフターコロナの2022年にシドニーで初開催されて以来、オーストラリア5都市で開催される一大イベントへと成長を遂げている。

2026年もオーストラリアの主要都市で開催予定であり、2025年10月にはキャンベラとゴールドコーストでも初開催された。キャンベラでは日本酒とフードペアリングを楽しむ「Canberra Kanpai & Canapés」、ゴールドコーストでは日本の屋台グルメが並ぶ「Gold Coast Sake Festival and Japanese Food Market」として、それぞれ独自のプログラムを展開。メルボルンやシドニーとは異なる趣向で、日本の酒文化を紹介する意欲的な試みとなった。

日本酒を入り口として日本の食や文化の魅力を伝え、訪日意欲を喚起するイベントとして、今後もオーストラリアにおける日本文化発信の中核的な役割を担っていくだろう。

JAMS.TV Pty Ltd 遠藤代表取締役からのコメント

「今年もご来場いただいた皆さま、誠にありがとうございました。

日豪の架け橋となるようなイベントを目指し開催してきて今年で4年目。このシドニー会場は過去最大の出展者数を迎えての開催となり、さまざまなチャレンジがありましたが、無事に終えられてホッとしております。

出展者はじめ関係者の皆さま、80名を超えるの日本人留学生やワーキングホリデーなど在留邦人を中心とした当日スタッフの皆さま、ご協力いただきありがとうございました。

年々高まる来場者や出展者の皆さまの期待に応えられるよう、来年の開催に向けて準備を進めてまいりますので、引き続きお力添えのほど、よろしくお願いいたします!」

出展者の方々

商談会の様子

セミナーの様子

全ての写真:Sayu Matsunaga

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