エンタメ/スポーツ

ビジュアルを通して世界を拡張する斬新奇抜なクリエイター/石井将義

「石井将義、36歳。O型。戌年。水瓶座。動物占いはチーターです」

私物である高性能レコーダーを持ち込み、自ら先陣を切ってインタビューを始めた石井さんは、現在シドニーを拠点に活動するXRクリエイティブディレクター。映画に魅せられた幼少期から、映像制作の道を志した。

だが、現在に至るまでただひたすら一本道を進んできたわけではない。紆余曲折を経て、日本を飛び出しロンドン、ニュージーランド、そしてシドニーへとたどり着いた。回り道をしたようで、「今の僕を形成している」というその経歴はユニークだ。

自慢のカイゼル髭を触りながら語る石井さんとのインタビューから伝わったのは、進化していくメディアを通して既存の世界を超越したいという強い思いと、見せ方に対するこだわりだった。

「ウソ」の力を知った少年時代

フリーランスで、ディレクター、ディレクター・オブ・フォトグラフィー、エディターとして活動させていただいています。出身は愛知県西尾市のお茶畑、特に抹茶が有名な田舎で育ちました。

父親は元警察官、母親は元看護士です。僕が7、8歳の時に母親に連れられて、生まれて初めて最初に見た実写映画が、黒沢清監督のスプラッターフィルムで「スウィート・ホーム」でした。

今じゃ絶対子供に見せないようなすごいグロ描写があって。2人とも職業柄、他者の死に関して達観していたのか、そういったところで感覚が狂っていたんでしょうね(笑)。

10歳から11歳の頃には、小学校の年間行事のひとつで林間学校があって、各班がキャンプファイヤーの周りでパフォーマンスをするんですよ。当時の友人と一緒に数分の時代劇のパロディーを作って、翌日一番みんなを沸かせたパフォーマンスをした班が表彰される時に、僕の班が表彰されたんです。

それで「代表者前に出てきて」って言われた時に、自分の意思とは関係なく代表者として周りから担ぎ出され、その時に自分の存在意義を獲得したんじゃないかと考えています。友達と仲良く作ったものが周りを幸せにして、称えるに値することをお前はしたんだ、っていうのを感じたんです。

クリエイティブに不特定多数の人間とひとつのフィクション、ウソを作るっていう。そのウソの力っていうのを当時感じたんでしょうね。しかもパロディーだったので、ウソのウソっていう(笑)。

偉大な映画監督たちから影響を受けて辿った道

僕は80年代に育ったので、スピルバーグ映画に非常にインパクトを受けました。当時はまだ2Dですが、見たこともない大きなスクリーンで、なんかすごいことが起こっているっていうそのインパクト。

映画館で振動させられて生まれたエネルギーって、何かしらの形で出さないと暴発するか、内に潜ってツイストしちゃうので、アウトプットという形で自分も作りたいと、ごく自然に思わされたんじゃないでしょうか。

その当時はインターネットがなかったので、本屋や図書館に行っては「監督のなり方」みたいな映画の本や雑誌を毎月読んでいました。10代の頃にスピルバーグとタランティーノにどっぷりハマり、彼らが監督になる前は役者の勉強をしていたのを知ったんですね。「じゃあ、俺も役者やろう」って。そこから役者の学校にも通い始めました。

高校卒業後に上京しました。レンタルビデオ店で計5、6年働いて、毎日とにかく映画を見まくりました。タランティーノがレンタルビデオ店で働いていたので「俺もレンタルビデオ店」って、まんまコピーしていたんです(笑)。その間はテレビドラマのエキストラをしたり、レンタルビデオ店で知り合った友人と自主製作映画も作ったりしていましたね。

わき道にそれつつも現在に繋がるバンド活動

高校時代の友人と東京で久しぶりに会ったら、彼が音楽業界の裏方の専門学校に通っていることを知ったんです。ちょうどその時に、「このまま映画をやってもたいしたもの作れないな」って自分の浅さを知って、映像表現としてある種の自分の限界が見えていたこともあり、自分もギターが弾けたものだから、彼と「バンドやろうや」って趣味で始めました。

一度別のことに注力してみようとして、少しだったはずが……、趣味が趣味じゃなくなってしまって。気がつけば8年間もバンド活動をしていました(笑)。

ただ、その時に一緒にやっていた仲間が、音に対しての突き詰め方がすごいストイックな奴だったんです。そのおかげで、一音とか振動とかっていうものに対しての向き合い方が変わりました。振動や音への彼独自の視点が、今の映像作家としての僕を形成しているところがあるんです。

そういった方向性で音に関して突き詰めていった結果、「日本語の音は俺たちのやりたいことに合ってない」という結論にたどり着いて、「じゃあ、英語でやろう」と。英語って爆発音がたくさんあるので、リズミックなんですよね。例えば「th」や「v」なんかもそうですが、雑音が多く振動の振れ幅が日本語より広いんです。

こういう風に曲をミックスしてくれって日本人のエンジニアとイギリス人のエンジニアに同じように頼んでも、イギリス人や英語圏で育ったエンジニアの方が、厚みのある音を作ってくることも多くて。

なぜかっていうと、日本人は日本語にない振れ幅の部分を雑音って感じて切っちゃうんです。だからコンパクトにまとまっているんですけど、なんかキレイに聞こえるだけみたいな。それで「日本語と英語のいいとこ取りでなんとかできないかな」っていうことになり、それ以来アメリカ人やイギリス人のボーカルを加入させて活動しました。東京で6年間、ロンドンで2年間バンド活動したんですけど、芽が出ず活動休止となりました。

場所はどこでもよかった、でも出会いがあったオーストラリア

ロンドンでバンド活動をしていた時に、相方から完全なる敗北宣言が出たので、その瞬間から映画モードに完全にスイッチしました。そこから英語圏で映像制作のノウハウを学びたいと思い、30歳手前だったのもあってワーホリに行こうと。

まずはニュージーランドに渡りましたが、なかなか合わなかったので、近いという理由でオーストラリアに移ります。そこからシドニーのフィルムスクールに入学し、紆余曲折を経てシドニーで活動されている役者の嶋本信明さんつながりでオーストラリア人のネイサンと出会うことに。

そういった縁はあったので、オーストラリアに来たことが間違いではないと思いますが、ぶっちゃけ映像にこだわるならオーストラリアじゃなくてもいいと思っています。たまたま今オーストラリアにいるだけで、全然オーストラリアにコミットしていないですね。

80年代の日本映画って角川映画が最盛期の時で、すごいパワーがあったんですが、僕が20代で東京にいた時は、日本映画のコマーシャルを観ていても全然昂らないというのもあり、海外へ目を向けていました。

でも今後10年とかを見ると、日本の方がやりたいことができるんじゃないかとも思います。というか、場所はどうでもいいんですよね。そこにいる人が重要なんですよ。地球じゃなくていいっていう。地球を出たいです。地球、基本つまんないですね(笑)。

基本的に自分が拡張したら、楽しめる方法は無限に広がって行くと思っています。僕がいつも見ているのは、サブジェクトとオブジェクトの「間」ですね。インプットからアウトプットされる途中のまだ形にならないものをどう具現化するかに面白みや未来を感じていて、それをどう表現するかっていう手法にフォーカスしています。

アイデアがあふれ出たオーストラリア人監督との作品「Abandoned(アバンダンド)」

企画の発端は、後にフィルミングパートナーになるネイサンに見せてもらった「Abandoned」の元となるショートフィルムです。当時チームを作る時に、自分の目となる人と自分の耳となる人を探していて、ネイサンの最初のショートフィルムを見た時に、自分と同じような視点でものを見ているっていうのが分かったので。

そこから「Abandoned」を本格的に映像化してみようとなり、2人でアイデアを出し合っていたらどんどん世界観が膨らんでいって。「じゃあ、ウェブシリーズで」ってなりました。

作品のストーリーはざっくり言うと、「マッドマックス」の世紀末と「X-MEN」のSF、「子連れ狼」の親子っていう3つの要素が合わさった作品です。

主人公となるキャラクターがお父さんと娘なんですね。娘は世界が退廃してしまった世紀末後に生まれたので、テクノロジーとかが一切分からないんです。テクノロジーを知っているお父さんが、物の価値が全然違う状態にいる10代の娘を育てる話なんですが、「教育っていうのはある種の暴力をはらんでいる」というのを裏テーマに置いています。

なぜかっていうと、各国で子供を目にしてきた時に思ったのが、親のすることしないこと、食べるものなどすべてが子供に影響を与えるわけで、純粋無垢なものに「これは正しいことだよ」って有無を言わさず書き込んでいっている状況があって。それってどうなの、と社会全体で考えていかなきゃいけないんじゃないかというのも「Abandoned」で描こうとしています。

現場では撮影監督をしていました。ライティングとフレームの中に映っているものをすべて僕が責任を負っています。「映っているものに対して受け手にどういう心理的作用があるか」を常に問いかけて、これをどういう風に届けたいか、何を見てほしいか、何を持ってきてどう動かすのかっていう、「もの」・「色」・「動き」などすべてを熟考しています。

思い描いていたことが理想の形になったのは、3話目の嶋さんのシーン。やっぱりミドルエイジの方が画面の中でグワーッと躍動しているだけで、力がありますよね。アクションシーンには物語そのものには超えられない価値があると信じていて、逆光を背に日本刀で戦っているシーンは全部1ショットで撮っているのですが、あれは今のところ僕が具現化し得る到達点というか、大きい予算が組めない限りこれ以上はできないと思いました。

「見た目」へのこだわりとカイゼル髭

動画は読んで字のごとく「動いている画」なので、演出する時はどう動くかっていう点をまず見るようにしています。動きというのは演者によって、演者のバックボーンによっても変わります。

つまり、その人の役に一番合う、一番美しく見える動きを追求するということですね。ただ立ってもらうにしても、つま先の角度ひとつにしても印象がガラッと変わるので。その中でも特にz軸を意識しています。3次元って縦と横と奥行きがあって、奥行きを使って効果的に観客に迫っていくっていう。x、y、zとあと時間軸。この4つのコンビネーションは、動画の中ではかなり重要になってきます。

現実の話でも見た目はやっぱり重要で、例えばこの髭も自分のアイデンティティを確立するためにジェルを塗って整えています。アジア人で髭がピンとしている人は、今のところ僕の周りでは一人もいないですし、やっぱり印象に残りますよね。髭を作ってからは仕事も増えたような気がします(笑)。

幼少期に映画館で受けた衝撃が再び

これから2Dのフラットスクリーンっていうもの自体が、今後10年でもうメインストリームじゃなくなる可能性が非常に高いと思っていて。今一番注力しているのが、次世代メディアのVR、AR、MRですね。これらに対応するべく、実はプロダクションを立ち上げて準備しています。

それには考え方やアプローチなど、いろんなものを一新しなくちゃだめだと思わされたVR作品がいくつかあって。現状は視覚と聴覚からしか情報を受けることができませんが、こんなに表現できちゃうの?っていう衝撃を受けました。今まで考えていたインタラクティブは、平面だけなんです。次世代メディアでは、映像と音に対して3Dのアプローチができるんですよ。

ただVRではまだ温度感の表現はできないので、触覚を今市場に出ている機材を使って、どれくらいコミットできるかっていうのを研究しているところです。まだまだ課題はありますが、現時点では完全なるブルーオーシャンだと思いますし、そこを広げていくことは挑戦のしがいがありますね。

進化の定義は「3」を増やすということ

働き方とか世界の在り方とかがガラッと変わっていくすごいフェーズに生きているので、今後は我々も新しいメディアに対応していきながら進化していきたいです。

進化っていうのは、僕の中では「3」を増やすこと。ドキュメンタリーをライフワークで作っているんですが、その取材でたまたまお米のスペシャリストに会う機会がありました。その方が「人生には3:4:3っていう比率が一番なんだ」とおっしゃっていて。

自分の周りに10人いたとしたら、3人は自分も自分の周りの人も幸せにする人たち。4人は自分にとっていてもいなくても別にいい人たち。最後の3人は、自分のために距離を取っておかなきゃまずい人たち。最初の「3」を増やしていくことが、僕の中の進化だと思っています。

結局は、自分がインタラクティブできる仲間の質と量が増えれば増えるほど、例え自分が何もしなくても彼らが何かやっているだけで楽しい。柔軟性に欠けるウォーターフォール型の組織ではなく、各々が好きなことにコミットして、クリエイター側も消費者側も相乗効果的に幸せになれる状況を作りたいっていうのがあります。

だから今後の展望は、次世代メディアに対応すべく若い人ともっとコラボレートして、自分と世界をコンテンツの力で進化させていきたいです。

石井将義プロフィール

XRクリエイティブ・ディレクター。10代でスピルバーグ、タランティーノ作品に影響を受け、映像制作の道を志す。役者、音楽活動を経て30歳で渡豪し、シドニーフィルムスクールにて専門的な映像技術を学ぶ。卒業後はシドニーでさまざまなプロダクションを経験し、フリーランスのディレクターとして活動を開始。共同監督作品の「Abandoned」を完成させる。現在はプロモーションビデオやイベント撮影、編集の仕事を受ける傍ら、次世代メディアのVR、AR、MRに対応するべく新プロダクションDoorsta(http://doorsta.com)の立ち上げに尽力している。

速報ニュース!

「Abandoned(アバンダンド)」が2018年のメルボルンウェブフェスティバルに、スポットライトセレクション部門でノミネートされました。

詳細はこちらから↓
https://www.melbournewebfest.com/selections/abandoned

 

取材:德田直大
文:村上紗英

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