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花と人を繋げ、命の美しさを表現するフローリスト/今野有加

日本とオーストラリアの2拠点で英語教師としてのキャリアを確立させた今野有加さん。家族にも恵まれ、彼女の人生は順風満帆に思えたが、自身の子どもたちが成長するにつれて、キャリアの方向性に迷いが生じていた。

本当の幸せについて考えた末、今まで築いてきたキャリアを手放すという一世一代の大勝負に出て、「フローリスト」という新しい世界に踏み入れることに。今までのキャリアとは全く異なる、花を人間に生けて独特な世界観を表現する「花人間」としての活動をスタートさせ、オーストラリアのシドニーに撮影スタジオをオープン。

花と真摯に向き合い、真っ直ぐ前を見つめ、変化を恐れず飛躍を続ける彼女の想いとは? ありのままの気持ちを語ってもらった。

※フローリスト:園芸愛好者。園芸を好み愛する人を指す

「幸せ」を追求した先に見えた新たな挑戦

日本では児童英語の先生として働いていて、オーストラリアに来てからも「J-Shineの育成コース」のトレーナーをしていました。オーストラリアで出会った方と結婚して、その後も4年くらいは英語の先生としての仕事を続けていました。

子どもを出産した後7年間ほどは主婦でしたが、ふたりとも小学校に行くようになって自分の時間ができたときに、社会に貢献したいという気持ちが芽生えました。その気持ちが生まれてからは、このまま今までのキャリアを続けていくか、全く違う業界にキャリアチェンジをするかとても迷いましたね。

お金を稼ぐためだけに仕事をするとストレスも溜まるし、私が幸せと感じていなければ、子どもたちにもその気持ちが伝わってしまう気がして、すごく申し訳なくて……。自分が幸せになって、満たされることを一番に考えようと思うようになりました。

親として子どもたちに、「この世界は楽しくて、未来は明るいんだよ」ということを見せてあげたいという気持ちが強くて、そういう意味でもキャリアチェンジをして、新しいことに挑戦したい気持ちでいっぱいでした。

※J-Shine:小学校英語指導者認定協議会

衝撃を受けた1枚の写真と下積みの2年間

今後のキャリアの方向性に迷っていたとき、ある人がFacebookに投稿していた花人間の写真が目に留まりました。その写真を見たときに衝撃を受けたのを覚えています。こんなにも「自然に生かされている人間」が表現できるんだと。作品を作っているアーティストはどんな人なんだろうと気になり、花人間の先駆者を探しました。

インターネットで調べてみると、「GANON(ガノン)」という会社が作品を手がけていることが分かりました。しかも、驚くことに自分の地元である札幌に本店があったんです!

それからというもの、GANONと一緒にビジネスをすることを目標に、結果を残すことに専念しましたね。「私は今までこれだけのことをやってきました」というものがないと、シドニーで花人間をやりたいなんて言えないと思って……。まずはオーストラリアのTAFEで2年間徹底的にフラワーアレンジメントを勉強して、フローリストの大会にもたくさん出て土台を築きました。

TAFE2年目のあるときに、先生から「NSW州で一番大きな大会があるけど出てみない?」と、学校からの代表3人のうちの1人に選んでもらいました。仲間や先生、家族からの支えがあり、その大会では1位を勝ち取ったんです! その大会で結果を残すことができたので、初めて自分の履歴書を添えてGANONにメッセージを送りました。それが彼らとのファーストコンタクトです。

目の前のことにがむしゃらに打ち込んだ日々

その後GANONからきた返事の内容は「メッセージとても嬉しかったです。帰国したときはぜひ顔を見せてくださいね」というもの。この時は、前向きな返事かどうかは分かりませんでした。

それから半年後、私が日本に帰国した際に、GANONの統括責任者とお話しをする機会をいただき、具体的なビジネスの話まですることができました。その後も何度か話を重ね、今年の4月にやっと契約を結ぶまでに至ったという感じです。

シドニーで活動を始めるにあたり、この1年間は準備として、メイクやヘア、着付け、カメラ、写真加工の方法をずっと学んでいました。GANONでも研修があったのですが、普通はフローリストとカメラマン、マーケティングの3人が各々の専門分野を担当するそうです。私は全てを1人でこなしていたので、GANONの人からも「全部1人でこなす人は初めてだ」と驚かれました。

いろんなことを急に習いだして、周りからはきっと、「この人は何を目指しているんだろう?」と思われていたかもしれない(笑)。でも、活動準備のためにたくさん投資もしたし、そのときはただただ必死で目の前のことをこなすのに精一杯でしたね。

「花を愛でること」と「命を奪っていること」の矛盾と葛藤

ある時GANONの社長と、「フローリストは花を生けるのと同時に、自らの手で花の命を断つので、やっていることが矛盾しているのでは」と話したことがあります。GANONの社長はすごく自然を愛する人。「花のために、自分たちができることは何か」をいつも考えていて、まさに少年の気持ちを持ったまま大人になったような方なんです。

社長は「ずっと悩み続けることが大事だ」と言ってくれました。悩み抜いて導き出した私なりの答えが、「尊い花の命を最大限に美しく見せることがフローリストとしての使命」ということ。命あるものはいつかは滅びる定めですが、老いていくことにも価値があり、その過程の中で花を最大限に美しく生かすお手伝いができればと思っています。

自然と人を繋げるのも、私の中では大切なこと。花と人間ってすごく似ていると思っていて、花も人間と同じように主役になったり、主役を立てたり、それぞれの個性があるんです。英語教師をしていたときは、目立つ子や恥ずかしがり屋な子の異なる個性を引き出してあげるというのが私の仕事だったので、今も昔も根本的にやっていることは同じなのかなと思います。

人も花も、意味があるからみんな存在してる。このふたつの似た命を融合させた作品を生み出せることにとてもやりがいを感じています。

花と人を繋げて一人ひとりの個性や魅力を引き出す

花人間のためのスタジオをシドニーでプレオープンさせたときに、いろいろな理由で体験されるお客さんを担当しました。出産や誕生日の記念に来られる人もいれば、中には仕事帰りにふらっと寄ってくれた方もいましたね。

スタジオに来られたのがどんな理由にせよ、撮影で使ったお花はきっと忘れないと思うんです。道を歩いているとき、もしくはお花屋さんのそばを通ったときに、「あ! この花を生けてもらったな」と思い出してくれる。私自身、自然と人を繋げることをゴールに活動をしているので、何かの拍子に思い出してくれるだけで、私の目的は果たされたという気持ちになります。

今までは植物に興味がなかったけど、花人間を通して植物の名前を覚えてくれたり。人を好きになるとその人を大切にしようと思うみたいに、自然を好きになって自然を大切にしようという考えが生まれると思うので、花人間は私が伝えたいことを伝えられる仕事だと信じています。

あと、自分の中で忘れてはいけないと思っていることは、花の魅力と個性を最大限に生かして、お客様が想像している以上のものを作るということ。そして、お客様の隠れた魅力を引き出すことができるのであれば本望です。「この顔絶対かわいいな」とか「今の顔セクシーだな」という魅力的に見えるとっておきの瞬間をどんどん残していきたいですね。

共通の想いを持った仲間と一緒にさらに上のステージへ

今はシドニーだけでの活動ですが、将来的には同じ夢や目的を持っている人と一緒に、オーストラリアで店舗を増やしていけたらと思います。そして、日本からGANONのスタッフをオーストラリアに呼んで、花人間のショーをやりたいですね!

「世界一花を愛する国を作る」がGANONのコンセプトなんですが、そのコンセプトに共感してくれる仲間をどんどん増やし、シドニーやメルボルンなど、オーストラリア各地で活動していきたいです。

ダンスやファッション、医療関係などいろんな分野の人とのコラボレーションもしてみたいですね。もし来てくださいと言われたらどこへでも行きます。

多様な表現方法が受け入れられる時代に合った「花人間」

これまでの人生で経験したこと全てが、今の私を生み出していると思いますし、無駄だったことはひとつもなかったんじゃないかな。実は、話すことがあまり得意ではないのですが、自分の届けたい想いを、花を使って形にして表現できることに幸せを感じています。

日本人は特に、自分をアピールすることや表現することがすごく苦手な人種。でも、最近ではFacebookやInstagramで自分の写真を載せる人も多いし、時代はすごく変わってきていると思います。

各々が自由に表現することが受け入れられる時代が来ているのかな。だから、花人間も必要としている人たちがいて、受け入れられているんだと思います。個人が自由に表現できる時代なので、花人間も面白く発展していって欲しいですね。

取材:西村 望美、久持 涼子
文:西村 望美

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今野有加さんの情報はこちら

ウェブ:https://puppeteerflower.com
メール:puppeteerflower@gmail.com
Instagram:@puppeteer_floral_design

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