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国境を越え愛を繋ぐ「ウェディングフォトグラファー」/野尻勝一

カメラのデジタル化やスマートフォンの普及が進み、誰でも気軽に綺麗な写真を撮ることができる時代になった。写真を撮るという行為がより身近になり技術が大衆化した今、プロのフォトグラファーとしてすべきことは何か。

ウェディングフォトグラファー、野尻勝一。20年以上の間第一線で活躍し、1,300人以上のカップルの幸せな瞬間を写真に収めてきた。

NSW州の「TOP 10 ウェディングフォトグラファー」に8年連続選出。彼に撮影して欲しいと、オーストラリア国内外から予約が後を絶たない。

ウェディングフォトグラファーという垣根を越え、昨年からアメリカ・ニューヨークタイムズ社のオーストラリア支社専属カメラマンとしても活躍。一度ウェディング撮影ワークショップを開けば、海外から参加者が訪れ、彼のもとで学びたいと毎日メールが届く。

プロのフォトグラファーとして、確固たる地位を築いてきた野尻勝一氏に、業界の移り変わりや、同性婚の合法化によりますます多様化を見せるオーストラリアのウェディング事情など話を伺った。

英会話学校の営業部長から単身オーストラリアへ

出身は京都の宇治です。日本では英会話学校の営業部長をずっとしていて、英語環境のお仕事だったので、オーストラリアへ来る前からある程度、英語でのコミュニケーションはできたほうだと思います。

ただ、もうちょっとブラッシュアップしたいなということで、1996年に仕事を休職して渡豪しました。1年間だけの滞在の予定がそのまま残りました、というありがちなタイプでしょうか(笑)。

貯金20万円くらいでオーストラリアへ来たので、今のワーキングホリデーの方々と同じように、当時は小さなアパートをシェアして、洋服屋さんでアルバイトしながら生計をたてていました。

ウェディング会社の支社長からフォトグラファーへ転身

オーストラリアへ移住後、大手のウエディング会社でウエディングプランナーさんやフローリストさん、カメラマンさんなどをまとめる支社長をさせていただいていました。

オペレーションからプランニング、挙式会場から裏舞台まで、ウェディング業務全般のマネジメントを任されたお陰で、写真撮影に限らずウェディング全般の知識やノウハウも得ることができました。

独立を考えた時に、クリエイティブな仕事をしたいという気持ちとカメラへの興味があったので、ウェディング業界の中でも最もユニークであり、自分の個性やスタイルを引き出せるフォトグラファーという道を選ぶことにしたんです。

フリーのフォトグラファーとして独立し、その後2005年に写真・動画撮影の会社「シドニー・クリエイティブ・フォトグラフィー」を立ち上げ、現在はローカルスタッフの5名体制で、主にウェディング撮影やイベント撮影をしています。

カメラにのめり込んだのは意外にも渡豪後だった

カメラとの出会いは、多分中学生の頃に父の持っていたフィルム仕様のカメラだったと思います。

父のカメラは、フィルムを入れるのも難しいとても古いもので。シャッターを押すたびにゼンマイをグリグリ巻いていたのをすごく覚えています(笑)。

白黒の古いアンティークのカメラだったので、ちょうどその頃人気だった「写ルンです」という使い捨てカメラを使うことが多かったですね(笑)。

オーストラリアへ移住した頃から趣味として、一眼レフの魅力にものめり込むようになりました。

一流から学ぶということ

 

勉強というとおこがましいのですが、私は以前から「一流と呼ばれるアーティストから学びたい、体感したい」という気持ちが強くありました。

撮影技術だけでなくプロのフォトグラファーとしての熱意や、アーティストとしての在り方そのものを、世界を股にかける数々のトップフォトグラファーの方々から、長年の間いろいろな角度で学ばせていただきましたね。

その後は、自分のスタイルとビジネスモデルを確立することに力を注ぎ、気持ちがぶれないよう信念を貫いて、真っ直ぐな気持ちで経験を積んできました。

今でもトップアーティストの方々と撮影会や討論会みたいなものを開催して、情報や作品、フィードバックをシェアしたりとお互いに良い刺激を受けあっています。

「ウエディング・フォト・ジャーナリズム(Wedding Photography Journalism)」

ウェディング撮影のスタイルにもいろいろあるのですが、私は「ウエディング・フォト・ジャーナリズム(Wedding Photography Journalism)」という、ナチュラルな瞬間をドキュメンタリー方式で写真に収めていくスタイルで撮影させていただいています。

私が撮影した写真を次の世代に見せた時にも、恥ずかしくて照れてしまわないような、タイムレスでスタイリッシュ、そして笑顔いっぱいな写真を撮影するよう心がけています。

よくウェディングは「ストーリー・テリング(Story Telling)」と言われるのですが、当日どんなことがあったのかを一枚一枚の写真から思い出して話ができるような作品を残したいと思いながら、常にカップルのことを考えてシャッターを切っています。

アーティストは自分のこだわりが強いことが多いのですが、ウェディング写真に関しては作品の最終地点がお客様であることを常に意識して、自分の変に強いこだわりがお客様の意向に反しないよう、フレキシブルに対応することも必要だと思っています。

業界のトップレベル「ウェディングフォトグラフィー」

ウェディング撮影は、やり直しはきかないので、毎秒が一発勝負。朝から晩まで10時間~12時間の間、さまざまな瞬間を早く、綺麗に、確実に、そしてそれをコンスタントに撮影することが求められます。

晴れていたのに急に曇ってきたり、屋外から屋内に移動したり、急に歩き出したり、振り向いたり、表情が変わったり、もちろん背景も光の入り方も目まぐるしく変わる中で、 秒刻みでバリュエーション豊富な写真を1000枚近く撮影しています。

目つむり写真にならないよう、お客様のまばたきのタイミングを見ながら撮影したりもしてるんですよ(笑)。さまざまな撮影業務の中でも、ウェディング撮影はかなり特殊な技術が必要だと言われてます。

「友達にカメラマンがいるから……」と、プロのウェディングフォトグラファーを雇わない方もいらっしゃるのですが、ウェディングフォトグラファーと、ファッションフォトグラファーは、料理界で例えると、寿司シェフとパティシエくらいの違いがあると言っても過言ではないです。

なので、これから結婚予定のカップルには、素敵な写真を残して欲しいですね。

TOP 10に選ばれ続け、国内外へと広がる活躍の場

お客様からのレビューやメーカーさんのニコンやキャノンの審査員など、さまざまな組み合わせて評価されるNSW州の「TOP 10 ウェディングフォトグラファー」に昨年も選ばれました。

登録されているプロのカメラマンはNSW州で700人ほどいて、その中でウェディング専門の方が半分くらいだと言われています。

それを機会に日本でも仕事をいただいて、ウエディング雑誌「海外ゼクシィ」の撮影をしたり、ブライダルブランド「Vera wang(ヴェラ・ウォン)」や桂由美さんのウェディングコレクションの撮影をしたりしました。

日本の芸能の方だと、渡部直美さんや滝沢カレンさん、ローラさんの撮影も経験させていただきました。

ウェディング以外の撮影ですと、ニューヨークタイムズ紙の登録カメラマンとしても活動していて、政治的・社会的問題のドキュメンタリー撮影をしています。

オーストラリアのウェディング業界から見た多様性

オーストラリアのウェディング業界も、10年前と比べてどんどん多様化が進んできているように感じています。

以前は、白人同士やアジア人同士の結婚が比較的多かったのですが、最近では国際カップルの比率もずいぶん増えましたね。

例えば、旦那さんがギリシャ人なので、最初はギリシャ式のスタイルで、途中から着物に着替えて日本式のスタイルに変えるなど、スタイルや宗教、お客様のこだわりに合わせて、ウェディングも国際化されている気がしますね。

日本では「感動のウェディング」といった演出で、花嫁さんが感動して泣くことが多いですよね。オーストラリアではもう少しカジュアルで笑いがいっぱいのお祝いパーティーといったイメージ。カルチャーの違いかもしれないですね。

空中でも海中でもこだわりをカタチにする

私のお客様は90%がローカルの方なのですが、最近は海外ウェディングもオージーの中で人気なんですよ。去年はハワイや日本、バリ、タイ、マレーシア、ブラジルまで撮影に行きました。

タイのプーケットで撮影させていただいた時は、象の上に乗って撮影したいというカップルの方がいらっしゃいましたし、グレートバリアリーフでは海に潜って指輪を交換したいという少し変わったリクエストもありましたね。

あと、SBSの撮影でヘリコプターライドで空中撮影もやりました。12月31日の11時59分にハーバーブリッジの上で結婚したいという方もいましたが、こちらは実現しませんでした(笑)。

今後もオーストラリアのウェディング業界は、目まぐるしく移り変わり、ますます個性的で型にはまらない姿へと展開していくのではないでしょうか。

同性婚の合法化「LOVE IS LOVE」

去年からオーストラリアでも同性婚が合法化され、同性カップルの撮影が本当に多かったです。日本を含むアジア諸国の同性カップルが、オーストラリアで結婚されることも増えました。

法律上結婚することができず、長い間待っていた方が本当に多かったので、ゲストもカップルも大泣きして、とてもエモーショナルなウェディングが多いです。そして披露宴の盛り上がり方は、2倍くらいかもしれません。笑

オーストラリアにも同性婚に反対される方はいらっしゃると思うんですが、家族や友達の中にLGBTの方がいると「全然変なことじゃないんだな」と、みんなの考え方が変わっていくと思うんですね。

私は同性婚に関しては「LOVE IS LOVE」だと思っています。「同性婚は全然変なことじゃない、ごく普通」ということを、私の作品を通して伝えられたらなと思っています。

写真家から任せられるプレッシャーと喜び

一度、新朗様が世界的に有名な写真家の方で、新婦様がキャノンで働いている方だった時があるんです。そうすると、披露宴はキャノンで働いている方ばかりじゃないですか。社長さんとかも来られていて。

みなさんすごくいい型のカメラを持ってらっしゃるんですよね。それこそ100万円超えの機材を使う方や、まるでアフリカの野生動物でも追うような超大型レンズを持っているフォトグラファーまでいらっしゃったんです(笑)。

新郎様もゲストの方々もプロのフォトグラファーなので、私が撮影している時もこちらを見られているのが分かるんです。プロのフォトグラファーの方から撮影をお願いされるのは嬉しいことですが、今までで一番プレッシャーを感じた撮影でした。

誰でも気軽に綺麗な写真を撮ることができる時代

2000年以降を機に、カメラ機材もフィルムからデジタル化し、その後スマホの流通によって「誰でも気軽に綺麗な写真を撮ることができる時代」になったと思うんですね。

昔みたいな「一列に並んで、はいチーズ」といった記録写真は、もはやプロのフォトグラファーの仕事ではない時代に突入したのだと感じています。

記念撮影はご家族やお友達のスマホに任せて、プロとして躍動感あふれるアーティスティックな写真や、一枚の写真からウェディング当日のストーリーが繰り広げられるような作品を撮り続けていければと思っています。

大切な瞬間を逃さないように、コンスタントに綺麗な写真を何百枚も撮り続けるのはプレッシャーでもあるのですが、すごくチャレンジングな職人業務だと感じています。

世界と溝の広がる日本のウェディングフォトグラフィー

日本とオーストラリアのウェディング業界は全然違いますね。日本ではまだまだ記録写真というイメージが定着しているようで、残念ながら日本の技術は世界的に見てもずいぶん遅れていると言われています。

カルチャー的なものもあるとは思うのですが、日本のウェディング業界は大手挙式会場が自社カメラマンを推進しているようでフリーのウェディングフォトグラファーが自由に活動することを制限されてしまっているようなのです

それによってプロのウェディングフォトグラファーとして生計をたてることが厳しいので、なかなか世界レベルのウェディングフォトグラファーが育たないのだと言われています。

今、カメラマンに求められているもの

きっとどの職人さんも同じだと思うのですが、フォトグラファーにとって、撮影業務は末端業務の一部でしかありません。

トップクオリティーの作品を収めるための撮影技術はもちろんですが、いちビジネスパーソンとして、マーケティングや営業、事務・経理、PR、ブランディング、カスタマーサービス、人事など、マルチにこなせる人が求められると思います。

「写真が撮れるからフォトグラファー」「料理ができるから料理人」という時代は過ぎてしまったのかもしれないですね。

今後はフォトグラファーとしての撮影技術があることはもちろんですが、それ以上のプラスアルファが求められるのではないでしょうか。

「日本の業界を変える」ウェディングフォトグラファーの未来とは

実は、プロのウエディングフォトグラファーのためのワークショップを年に2回開いています。プロのカメラマンのアシスタントとして長年従事していた方や、ファッションや広告撮影からの転向希望の方がほとんどで、はるばる日本から参加してくれる方もいらっしゃるんです。

すでにカメラの知識も豊富で、とても綺麗な写真を撮られる方がほとんどですが、やはりウェディング撮影の特殊技術と野外での光のコントール方法の習得を希望される方が多いです。また、撮影技術以外の業務の大切さも学んでいただいています。

綺麗な写真を撮れる人はごまんといる中、今後は写真撮影の技術や経験だけにとらわれない、一握りだけが残っていける厳しい世界になると思います。

カメラ機材も撮影技術もトレンドもクライアントの意識も変化しているので、私自身もそうですが、今以上の技術と経験、そしてフレキシビリティーが求められていくと思いますね。

将来的には、日本の大学や専門学校などでワークショップを開催し、世界に通じるウェディング・フォトグラフィーを日本で広げていけたらなと思っています。

 

野尻勝一/Katsu Nojiri

1996年に渡豪。その後日系大手ブライダル企業の海外支店でブライダル経営・管理に従事。後にフリーのウェディングフォトグラファーとして独立し、2005年に写真撮影・動画撮影の会社「シドニー・クリエイティブ・フォトグラフィー」を立ち上げる。

海外の有名ウェディングドレスデザイナーのコレクションをはじめ、芸能人やスポーツ選手の撮影や、ウェディング雑誌、商業用撮影、イベント撮影、コーポレート撮影と多岐にわたって撮影業務に従事。

2010年以降NSW州にて「トップ10ウェディングフォトグラファー」に選出され、毎年数々の賞を受賞。オーストラリア在住の日本人写真家として信頼と実績を築く。シドニー・パークハイアットホテルを始めとする、5つ星インターナショナルホテル、グランドパシフィックグループの「専属フォトグラファー」、ニューヨークタイムズ社の写真家として従事。

シドニー・クリエイティブ・フォトグラフィー(ウェディング、コーポレート撮影、イベント撮影)
Photography by Katsu Nojiri(ウェディング撮影)
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取材・文:岩瀬まさみ

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