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シドニーFCアカデミーのゴールキーパーコーチ/伊藤瑞希さん(29歳)

ワーホリお仕事図鑑

「ワーホリだから、限られた業種でしか働けないだろう」なんとなくそう思っていませんか? どんな仕事でもできるのが ワーキングホリデービザのいいところ。オーストラリアでさまざまな 仕事をしているワーキングホリデーメーカーたちに注目してみましょう!

――現在の仕事をはじめるまでの経緯を教えてください。

大学院を修了した後、2016年4月にシドニーに来ました。大学院ではスポーツ心理学とサッカーのコーチングの研究をしていて、その時期に出会ったオーストラリアサッカー協会の方に、今所属しているシドニーFCのアカデミーを紹介してもらいました。日本でいう中高生の「ユース」と言われる年齢の選手がいるところです。練習を見に行ってシドニーFCアカデミーのダイレクターと話をして、「ここで経験を積みたい」と思ってアカデミーに通い始めました。

僕の立場は他のコーチが僕をどう紹介するかで決まっていって、最初の2ヶ月は「ゲスト」、次の2ヶ月は「インターン」、そして昨年のシーズン終わりにようやく「アシスタントゴールキーパーコーチ」と呼ばれるようになりました。そして昨年12月に「ヘッドゴールキーパーコーチ」として契約のオファーをいただきました。それまでは無給で、そもそもゲストと呼ばれていた最初の2ヵ月間は勝手に通っていただけ。グラウンドやロッカールームに行ってみて、「何も言われないし、あいさつしたら返してくれるし、追い出されない。よし、大丈夫だ!」みたいな感じで、どこまで立ち入っていいのかを確かめながら出入りしていました。

練習中は誰よりも早くボールを拾い、選手が怪我でプレイできない場面や人数が足りない場面に備えて準備を欠かさず、「ちょっと入ってよ」と声がかかるチャンスを逃さない。気づいたら練習が滞りなく進んでいるような、「使える存在」をまずは目指しました。チームのジャージは着てないし、選手の親も見てるから、不審に思われず、でも役に立つように、一線を超えないギリギリのラインを見極める毎日でしたね。

 

――オーストラリアを渡航先に選んだ理由は何ですか?

「サッカーを通して人の成長に関わる。それを、国籍や環境に関係なくできるようになる」という自分の目標と「選手の人生に寄り添えるコーチ」という自身の哲学を考えたら、絶対に英語は身につけないとダメ。いつかは海外に出ようと思っていたところ、大学院修了前に決まりかけていた仕事がなくなったので、すぐにビザが取れるワーキングホリデーで英語圏に行こうと思いました。

サッカーが伸びていることを知っていたのもオーストラリアに決めた理由のひとつですが、シドニーオリンピックのときに「スポーツが盛んで、しかも生活に根づいている」という印象があって、それが魅力的だったのも大きかったですね。

 

――仕事を始めてみての感想を教えてください。

サッカーの面から見て、オーストラリアは魅力的だと思います。バックグラウンドが違う人間がサッカーという競技を通じて同じ方向を向き、成長していく瞬間が日々あって、そこに最も近い場所で関われるのはものすごい魅力がありますね。

もちろん一概には言えないですけど、日本の場合は、モラルやルールがある程度統一されていて、「右向け」と言われたら右を向いてしまう雰囲気があるじゃないですか。そのぶん自分の感情や意見を表現するのが上手じゃないから、日本の子を教える場合はそれらをいかに引き出すかに重きを置きます。

一方でこっちの選手は納得できなければ動かないし、意味がわからなければ説明を求めてくる。ワーッと迫ってくる子をどうコントロールするかが重要で、スイッチが入らなければとことんダメだから、指導者に求められることが全く異なる。でも、だからこそおもしろくて、「こういうアプローチをしたら変わるんだ」っていう発見があります。彼らといっしょに僕自身も成長できているのは、何にも代えがたい楽しみですね。

 

――仕事をする上での苦労を、どのように乗り越えていますか?

英語は毎日苦労してます。わかったふりをしてもバレますから、相手が子供でもわからないって言うし、反対に子供からわからないと言われることもあります。僕は英語が話せることとコミュニケーションが取れることは別問題だと思っていて、言葉がダメなら他の方法を考えますし、事前にその場で対応できなさそうとわかっていれば、映像や資料を準備しています。

これまでで一番苦労したのは、「ゲスト」と呼ばれていた最初の2ヵ月。ゲストと言わるのがとにかく悔しくて、しかも通い続けた先に何があるのかがわからなかった。生活面でもお金は出ていく一方で、本当にギリギリの生活をしていました。日本でもスポーツ関係の仕事はしていたし、英語も多少はできたから、こっちでも仕事はつかめると思ってたんですよ。でもこの国は資格社会で、サッカーコーチの資格以外にも関連する細かい資格がいっぱいあって、それを取るには時間もお金もかかる。「このままじゃこの国にはいられない!」と思って、最初のうちは日本食レストランで働きながらシドニーFCに通って、空いた時間で他のサッカーやスポーツ関係のお金がもらえる仕事を探していました。

苦しいことはたくさんあったけど、いろいろな選択肢を切ってこっちにきたから、何も成し遂げてないまま次には進めないって気持ちは強かったですし、なによりもサポートしてくれる人たちの存在が大きかったですね。たくさんの人にチャンスをもらって、支えてもらって、彼らがいなかったらこの1年は過ごせなかったし、今の僕もない。

なかでも、こっちで出会った在豪20年の八木さん一家と、NPLでプレイしている大学時代の友人の村山拓哉選手とそのパートナーの石黒杏奈さんにはたくさんお世話になって、「お金ないんでしょ?」って食事に誘ってくれたり、オーストラリア事情を教えてもらったり、本当に感謝しています。

 

――現在の仕事を通じてよかったこと、成長したと思うことはありますか?

自分に自信が持てるようになりました。これまで信じてやってきたものが通用したこと、選手や他のスタッフに認めてもらえたこと、そして選手がうまくなって成長すること。誠実に真摯に、嘘をつかずに人と向き合っていれば、他の国に行ってもチャンスをつかめる可能性がある。自信がついたし、大きなやりがいも感じています。

日本であってもオーストラリアであっても、何かをつかみたいなら一生懸命になるのは当たり前。その上で、最低限のコミュニケーション力、一定レベルの専門性、環境への順応性が必要だと僕は思います。今回うまくいった背景にはたくさんの失敗があって、僕はこれまでいろいろな人にたくさんのご指導をいただき、怒られてきました。そのなかで、先程あげた3つの力や、チャンスとピンチを感じる力が培われたと思っています。

 

――最後に、今後の目標を教えてください!

今後の契約次第ですが、チャンスがあれば2~3年はこっちで選手の成長に携わって、「トップチームに選手を輩出する」「Socceroos(オーストラリア代表)に選手を輩出する」というアカデミーのミッションに貢献したいですね。また、少しでも多くの人にシドニーFCやサッカーに触れてほしいので、シドニー在住の日本人の方々がスタジアムに足を運ぶ企画を考えていきたいです。それが僕がシドニーFCにいる価値だと思ってます。

あとは、”Rise the bar”(自分のバーを上げる)と選手によく言っているんですが、それを求めるコーチは選手以上にバーを上げて、自分を高めていかなければいけない。だから、毎日自分を磨き続けること。それが個人としての目標ですね。

 

★「シドニーFC」のホームページはこちら

 

取材・文:天野夏海(写真はご本人より提供)

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