オーストラリアでは不動産市場の上昇傾向が続いていますが、これを機に初めて自宅を購入しようと考えている方も多いのではないでしょうか。その際、「オーストラリアの不動産エージェントから弁護士を雇うようにと言われても、弁護士に何をしてもらうのかよくわからない」というご質問も頻繁に受けています。
そこで、今回は山本法律事務所から「オーストラリアでの不動産購入」について2回に分けてお伝えします。前回(第1回)は、不動産購入者として留意すべき点と不動産購入の契約締結までの流れ、不動産のクーリングオフ期間について解説しました。
不動産の売主へ頭金を支払い、不動産購入の契約書にサインした後、買主は何をする必要があるのでしょうか。第2回は、オーストラリアの不動産購入の物件調査と、物件の契約締結から決済までの流れについて解説します。
オーストラリアの物件は、売主が出しているままの状態で購入する前提になっているため、もし物件の契約締結(Exchange of Contract)後に欠陥が見つかったとしても、基本的に、それを根拠に契約を破棄することができません。
物件の契約書にサインしたら、物件調査レポート(Building Inspection Report)や害虫調査レポート(Pest Inspection Report)を手配し、契約した建物やユニット内に構造上の問題がないか、害虫の問題がないかなどをチェックすることが重要です。物件の形態がユニットであれば、管理組合調査レポート(Strata Inspection Report)を入手し、大きな修繕の予定がないか、訴訟中の問題がないかなどもチェックしましょう。
これらの調査レポートは、オーストラリアの弁護士に精査を依頼することで、個人で判断が難しい問題点などを見つけてもらうことが可能です。
調査レポートの内容次第では、物件のクーリングオフ期間に契約をキャンセルすることもできます。ただし、オークションによる物件購入の場合はクーリングオフの権利がないため、調査レポートのチェックはオークション物件の契約締結以前に終わらせることが肝心です。
オーストラリアの金融機関から住宅ローンなどの借り入れを行う場合、金融機関の要請に従って住宅ローン書類を作成することになります。
オーストラリアの弁護士に依頼することで、弁護士と金融機関が直接やり取りをしますので、物件の買主がそれぞれの担当者の連絡先を通知しておくとスムーズに住宅ローンの手続きが進むでしょう。
オーストラリアの物件の買主は、購入価格に従って印紙税(stamp dutyまたはtransfer duty)を収める義務があります。物件の印紙税は決済時(Settlement)に支払うことになるので、それまでに印紙税の金額を準備しておく必要があります。
オーストラリアで初めてマイホーム物件を購入する際は、州ごとに設置されている 初回物件購入アシスタントスキーム(First Home Buyers Assistance Scheme)の申請をすることができます。この初回物件購入者を補助する各州の枠組みは、オーストラリアの市民権保持者だけでなく、永住権保持者でも申請資格があります。
例えばNSW州では、65万ドル以下の中古物件(2021年7月31日まで)/80万ドル以下の新築物件(2021年8月1日以降)を初回購入する場合に、印紙税が免除されます。また、80万ドル以下の中古物件または100万ドル以下の新築物件であっても、印紙税が減額されます。
オーストラリアの州ごとに初めてのマイホーム購入者への補助金制度も提案されています。
例えばNSW州では、2021年4月現在は新築物件(60万ドル以下)を購入する場合と、土地を購入して新築の家(土地と家の建築費が合計75万ドル以下)を建てるという場合、NSW州から1万ドルの補助金が支給されます。
初回物件オーナーの補助金制度は、州ごとに細かな条件が付いています。補助金の受給資格の有無を知るには、住宅ローンを組む金融機関および各州のRevenue Officeのウェブサイトを確認してみましょう。
オーストラリアの物件の決済(Settlement)とは、売買契約が完了する時点のプロセスのこと。この決済の時点で、売主は売却価格を受取り、買主は所有権を手にします。通常は契約締結時に決済日も指定されますが、実際にはさまざまな理由から指定日に決済が実行されないことも珍しくありません。
そのため、物件の決済が指定日通りに実行されるかどうか、弁護士と確認しつつ、物件への引っ越しや入居の予定を立てることをお勧めします。また、買主側の都合で物件の決済が遅れる場合は、買主にペナルティーが発生するので注意が必要です。
物件の決済日前には、最終内見をして物件の状態が契約締結時と確実に同じであるかどうか確認することが大切。できれば、不動産のエージェントにも同行してもらうようにしましょう。
内見すべきタイミングはケースバイケースです。例えば、購入物件にテナントが入っている場合、テナントに原因がある契約締結後にできた汚れや傷を確認するためにも、テナントの退室後に内見することが良いこともあります。そうした内見のタイミングは、弁護士に相談しましょう。
近年はオンライン決済も主流化しているため、物件の買主自身が決済に立ち会う必要はありません。買主の弁護士が決済の指定日に合わせて、水道代や地方税、管理組合の財務費用などの売主と買主の負担額を調整し、最終的な決済金額を売主の弁護士と確認し合うことになります。
物件の決済が終了すると、買主の弁護士から通知があるので、不動産エージェントから物件の鍵を入手しましょう。
現在、オーストラリアの物件の権利証は電子化されており、住宅ローンがない場合は弁護士が、住宅ローンがある場合は借入先の金融機関が、買主の物件の権利証を保管することになります。権利証が自分の名義になっていることを確認するには、各州の登記所のサイトなどから権利証のコピーを購入すると良いでしょう。
オーストラリアの光熱サービス関係の契約に関しては、買主本人が行う必要があります。
物件の決済後には、オーストラリアの水道局や地方自治体などの各機関に家主の変更通知が通達されます。
オーストラリアの物件の契約締結時、買主は頭金(deposit)を支払うことで物件に対する権利が発生しています。そのため、一軒家の場合は契約締結後すぐに建物保険(Building Insurance)に加入することをお勧めします。
すでに売主が建物保険に加入していたとしても、その保険に十分なカバーがない場合もあれば、住宅ローンの条件として保険加入が必要な場合も多くあります。オーストラリアの投資物件としての購入であれば、物件の決済後に家主保険(Landlord Insurance)に変更しておきましょう。
物件がユニットの場合、そのマンションのオーナー組合が建物保険には加入しているため、必要に応じて入居日からスタートする家財保険(Home Contents)への加入も考慮する必要があります。
以上が、オーストラリアでの不動産購入の一般的な過程と注意事項の概略です。しかし、物件の契約は千差万別であり、不動産購入から決済まで、常に専門家のアドバイスを受けることが不可欠であることは言うまでもありません。
※本記事は法律情報の提供を目的として作成されており、法律アドバイスとして利用されるためのものではありません。