前回の記事では、遺言がない場合、残された家族の相続手続きに大きな悪影響を及ぼしえることについてお伝えしました。
今回の記事では、故人が会社を経営していた場合について解説します。
会社の取締役が死亡しても、複数の取締役がいれば残りの取締役が経営を担うことができるので会社の運営には大きな影響はありません。取締役が一人しかいない場合でも、株主が複数いれば、株主が速やかに新たな取締役を任命することで会社の継続的な運営が可能になります。逆に単独株主が死亡した場合でも、取締役が同一人物でなければ経営の継続が可能です。
しかし、当地に多く存在する取締役と株主が同一人物かつ一人しかいない個人経営の会社の場合、この人物が死亡してしまった場合はどうなるでしょうか。
Corporations Actの201Fは上記ケースを想定し、遺言が存在すれば遺言で任命されたExecutor(遺言執行人)が新たな取締役を任命することができると規定しています。遺言執行人が任命した新たな取締役は死亡した取締役と同等の権限を持つため、遅滞なく会社運営を引き継ぐことができ、経営が空白となる期間を最小限にすることが可能となります。
相続手続き終了後、株式を相続した相続人が新たな取り締まり役を任命するか、遺言執行人によって任命された取締役に継続して会社運営を任せるかを選択することになります。
しかしながら、遺言がないと取締役としての権限を持つ人物が不在となり、会社経営が完全に停止してしまうことになります。こうした場合、配偶者や成人した子供など故人の近親者が裁判所でまず遺産執行人として認められる必要があり、手続きには相応の時間がかかります。
もし、故人の近親者が当地にいない場合は、裁判所の手続きに更に時間がかかることは言うまでもありません。その間、誰も会社の口座にアクセスすることができず、会社の財務状況を把握できないことになります。つまり従業員に給与を払ったり、買掛金に対する支払いも滞ることとなり、会社の評判が大きく傷つくことになります。
オフィスやオフィス機器をリースしていたり、会社名義で車などをローンで購入していたりすると支払いが滞ってしまい、裁判所の手続きが終了するまでに雪だるま式に負債が膨れ上がる、などとしたこともありえます。
また、滞納を理由に担保権を行使されて差し押さえとなる可能性もあるでしょう。例え、その会社を買収したいという話があったとしても、役員決議もできず、株主不在では株式を売却することもできません。
同様に、会社を清算したくとも裁判所の相続手続きを待つ必要があり、ようやく清算できる段階になった時には、長期間休業状態となっていた会社の価値は大きく減少している可能性が大いにあります。つまり、相続人が受け取ることができる遺産が目減りしてしまうということになります。
結論として単独経営の会社を持つ場合、有効な遺言書を作成しておくことはもちろん、会社の株を誰が相続するのかについて、遺言書の中で明確にしておくことが会社経営者としての責務と言えるでしょう。
同時に自身が判断能力を喪失した場合に備え、自分の代わりに経営を任せるに値する信頼できる人物を選び、会社として委任状を準備しておくことも考慮すべきでしょう。不測の事態を想定し対応策を整えておくことはリスク管理として不可欠であり、そうすることで自身の死後も継続的な会社経営が可能になり、つまりは家族や社員を守ることにも繋がります。
なお、本記事は法律情報の提供を目的として作成されており、法律アドバイスとして利用されるためのものではありません。
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