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オーストラリアの家族法の改正について

2024年5月6日、オーストラリアで家族法の改正法が施行します。

現在日本では「選択的共同親権」の導入が衆議院を通過したことが大きく報じられていますが、今回のオーストラリアの家族法改正では、2006年に導入された「平等な共同親責任」という推定原則の廃止が決まりました。

今回は、オーストラリアの家族法の改正内容についてご説明します。

オーストラリアの家族法改正の経緯

今回のオーストラリアの家族法改正では、2006年に導入された「平等な共同親責任」という推定原則の廃止が決まりました。

「平等な共同親責任」の原則は、「家庭内暴力などの場合を除き、教育、宗教、住む場所、医療といった子どもにとって重要な決定について、両親が共同で決める責任を負うことが子どもにとって最大の利益となる」という考え方です。2006年にこの推定原則が導入された背景には、それまで母親が優先され、父親の子どもの養育への関与がないがしろにされてきたという声に応える目的がありました。

それから過去20年近く、家庭裁判所はこの原則に基づいて養育についての紛争に対応してきました。今回この原則が廃止されることになった大きな原因は、この原則が誤って理解されてきたケースが多かったからです。

元来、「子どもに関する重要な決定について、共同で責任を持つことが子どもにとって望ましい」という原則であったはずが、「平等な養育機会の権利」と曲解され、乱用される結果を招いていました。具体的には、それまで子どもの養育にあまり関わっていなかった親が、養育費の負担をできるだけ抑えたい、または相手への嫌がらせといった目的を実現する手立てとして、建前上の平等な養育機会を要求する形でこの原則を悪用してきたのです。

その結果、子どもにとって慣れ親しんだ養育環境が突然変わってしまい、子どもの生活や精神状態が不安定になってしまうケースがありました。

今回はこうした現状を改善するため、推定原則を廃止し、「何よりも優先されるべきは子どもの利益である」という理念を改めて明確にしようということになりました。

原則廃止による子どもへの影響

この原則廃止を受けて、また2006年以前に逆戻りしてしまうのではという懸念を持つ方もいますが、専門家の間では基本的に裁判所のアプローチはこれまでと変わらないと受け止めています。

つまり、今後も例外を除き、子どもにとって重要な決定は両親が共同で話し合い、決定することを奨励すると同時に、現実的でない養育機会を要求する親にはそれが本当に子どもの利益になるかどうか、個々のケースごとに厳しく判断されることになります。

子どもの利益を判断するための6つの要件

さて、子どもの利益をどのように判断するか、改正法では6つの要件を挙げています。

具体的には、

  1. 子どもの安全
  2. 子ども本人の気持ち
  3. 子どもの成長や精神的・感情的・文化的なニーズ
  4. 養育を担う人物が子どものニーズに応えることができるかどうか
  5. 両親やその他親族との関係が子どもにとって有益であるかどうか
  6. 上記以外で、子どもにとって重要と思われる事実

の6つです。

これら6つの要件に優先順位はなく、あくまでも個々のケースでこの中でどの要件が子どもにとって最も重要なのか、その結果どのように子どもの養育を担うことが適切かを判断します。

さらに、家庭内暴力についても、現在または過去の家庭内暴力や虐待、育児放棄の有無も重要な判断要因となることが明文化されました。

「Independent Children’s Lawyer (ICL)」の役割強化

また、子どもの利益を個々のケースで具体的に判断するため、改正法では「Independent Children’s Lawyer (ICL)」の役割強化が追加されました。

これまで任意であった子ども本人との面談について、5歳以上であれば原則的に面談が必須となり、子どもの気持ちを本人が表明する機会として利用できることになります。

また「ハーグ条約」についての紛争においても、従来は裁判所はあくまでも例外的にICLの採用を決定することができましたが、今後はICLを積極的に裁判に関与させることが可能になります。

上述のような改正で、裁判所が子どもにとってより良い判断を行うことができるようになると期待されています。

※オーストラリアの家族法の改正については、在オーストラリア日本大使館でも紹介されています。こちらもあわせてご参照ください。


なお、本記事は法律情報の提供を目的として作成されており、法律アドバイスとして利用されるためのものではありません。

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