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日豪の地方行政に関する意見交換会

 

5月3日(木)、シャングリラ・ホテル ケンブリッジルーム3&4にて、日豪の地方行政に関する意見交換会が行われ、日本より全国の市長の代表組織であり、豪州のAustralian Local Government Association(通称:ALGA)に相当する「全国市長会」代表団がシドニーを訪問し、シドニー大都市圏の市長と日豪の地方行政に関する意見交換を行った。
 
 
会場の様子(左・市長席, 右・傍聴席)
  
参加者
 
日本側 6名 
山出保氏(全国市長会会長・金沢市市長)
佐藤清吉氏(角田市市長)
中原正純氏(駒ヶ根市市長)
柴田紘一氏(岡崎市市長)
柏木征夫氏(御坊市市長)
河内山哲朗氏(柳井市市長)
 
豪州側 5名
ニック・リッテン氏(NSW州地方自治体協会役員・ノースシドニー市議員)
ビブ・メイ氏(モスマン市ジェネラルマネージャー)
トニー・ヘイ氏(ボーカムヒルズ市市長)
ロリー・メイアー氏(ゴスフォード市市長)
パット・シーイー氏(ペンリス市市長)
 
司会
UTSロバート・メロー教授
 
 
  
討議中の様子
 
まず、全国市長会会長及び金沢市市長である山出保氏、NSW州地方自治体協会役員及びノースシドニー市議員であるニック・リッテン氏、両者からの開会挨拶があり、その後に出席者の紹介が行われた。そして1時間に渡る「日豪の地方自治体の課題について」の討議が開始された。
 
豪州側からの課題は主に以下のような問題が取り上げられた。
 
政府間関係に関して
  •  地方自治体は憲法に規定されていないため、税収を認められていない。そこから財源的な問題が生じている(国の財源のうち地方自治体への予算はわずか1%となっている)。
  • 地方自治体は州政府と主従関係のようになっているため、州政府との緊張関係が成り立ってしまっている。
 
財政問題に関して
  •  歳入が限られている。
  • 地方自治体は財政的に持続可能ではない(インフラ整備のための財源不足)。
 
社会・地域の課題
  • 人口が都市部に集中する結果、犯罪が多発している。
  • 高齢化及び健康問題(肥満、習慣病、子供の運動不足など)。
 
環境問題
  • 気候変動や水不足
  •  塩害などの農業問題
  • 固有動植物の保護
 
国際的な課題
  • 国際化に対する労働と貿易の問題
  • アジア太平洋地域との関係
  • テロの脅威と安全対策
  • 多文化主義と移民に関して
 
オーストラリア特有の問題
  •  少人口に対して土地が広大な為、一人当たりのインフラ整備へのコストが高くなる
  • 人口が集中した都市間に地理的な距離がある
  • 先住民(アボリジニ)との関係
  • サイクロンや山火事などの自然災害
 
日本側からは、岡崎市市長柴田紘一氏と柳井市市長河内山哲朗氏より、各市の地方自治体の取組事例が紹介された。
 
岡崎市では高齢化による寝たきり老人増加の対応策として、地域交流センター「げんき館」を建設。これは民間の力を借りて建設から運営までを任せるPFI手法を用いており、行政運営よりも安く活用できるようになっている。来年3月にオープン予定。
 
また、柳井市では市民による道路整備を行っている。農村部では道幅が狭く、2台の車がすれ違うことが出来ない状況で、緊急車両が通る際やお年寄りが利用することを考慮して、道路の整備を必要としていた。しかし財政難のため、市が全て資金を負担すると、50年かかっても完成が間に合わないことが判明した。そこで市民に土地を寄付してもらい、機械・材料・設計図及び危険な作業などは市が負担する形で、市民による道路整備を開始。現在では28路線(約2860m)が完成。5億円かかると見込まれた費用を5000万円に抑える事に成功した。大きな節約と早期の対応が可能となった他、市民に「自分達の道路」という意識が芽生えたことで、ゴミのポイ捨てなどが減り、環境衛生も向上した。
 
柳井市市長河内山哲朗氏
  
 
以上のような報告会の後、休憩時間を挟んで本格的な討議が一時間に渡って行われた。今回の討議は質問に対する回答という形を取らない自由討議だったため、あるコメントに対しては回答があり、あるコメントに対しては回答が無かった。挙がった議題を以下に表記する。
 
  • 山出保氏より「オーストラリアの地方自治体は州政府と主従関係のようになってしまっているのはなぜか?」という質問。それに対しロバート・メロー教授から「歴史的な背景が関わっている。イギリスが入植した時代に、6つあった植民地が独自の政治と理解を持つ州・連邦となったが、その際に地方自治体に関しては定義されなかったため、オーストラリアの地方自治体は“のけ者“のような状態になってしまった。」と説明。
  •  「日本もオーストラリアも中央政権のため政府に頼らなければならないのは共通の問題だが、地方自治体は一番市民に近い義務と責任を追う立場にあるため、積極的に政府に対して発言をすべきだ。」と満場一致で合意。
  • 保険・医療制度に対し、佐藤清吉氏より「日本には国民健康保険や介護保険、老人健康保険があるが、オーストラリア政府及び自治体はどのように管理しているのか?」と質問。それらを地方自治体が管理していないオーストラリア市長側から驚きが上がる。「市民の一般的な健康維持に対し連邦政府はゆっくりと撤退している。」と回答。それに対し日本市長側から「健康相談、能スキャン、肺のCT検査の徹底は重要。早期発見は保険料の節約にもつながる。」と説明。また、河内山哲朗氏は「日本の市町村は医療保険だけで毎年一兆円の赤字を出している。日本政府がもっと積極的になるべきだ」とコメント。
  •  ロバート・メロー教授、「重要な点は高齢化社会に対してどのような対策を取るかだ。健康に対するサービスに対してもっと枠を広げて考え、交通整備による移動方法の向上も視野に入れるべきだ」と発言。またロリー・メイアー氏は「NSW州では食事の配食サービスやコミュニティーセンター、新生児のためのベビーヘルスセンターなどを建設して地方自治体が積極的に市民の生活向上のための活動を行っている」と発言。
  • 中原正純氏は「住民の主張や要望にこたえる立場にあるのが地方自治体。将来的に見て“世界の中の日本”となる為にも、地方の活性化が必要。国も地方も改革のあり方を十分に考え、国ができることは国が、地方が出来ることは地方が、と役割分担を明確にするべきだ。さらに、国と地方自治体は上下・主従の関係ではなく対等であるべき。」と発言。
  •  最後には「今回、日豪の地方自治問題について話し合ったが、運営や環境は違えども抱えている問題は同じだということが分かった。我々は州・連邦政府・国に対して明確に、積極的に発言をするべき。私達は住民に密着した大切な立場であるから、役割を認めてもらえるようきちんと明確に住民の意思を伝えるべきだ。」と全体でのまとめがあった。
 
討議後の記念撮影
 
討議後、昼食会が開かれ、日豪市長同士はさらに話を続け、また、オブザーバーとして出席していたオーストラリアの学生達と感想・意見を述べ合うなどした。
 
学生オブザーバー(左からLung Wanさん, Pann Pannさん, Chungさん, Cheryl Poさん, Catherine Youngさん, Anthony Phillipsさん)
 
 
左から中原正純氏(駒ヶ根市市長), 柴田紘一氏(岡崎市市長), 佐藤清吉氏(角田市市長)
 
左からシャロン・ヴァンエッテン氏(クレア), ビブ・メイ氏(モスマン市ジェネラルマネージャー), 山崎恵氏(クレア)
 
左からLuke Sharpさん(学生オブザーバー), 安嶋麻起, Dianna Adis Tahhanさん(学生オブザーバー)
 
 
 
財団法人 自治体国際化教会(CLAIR) オフィシャルサイト

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