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カンタスの栄光と挫折

 

昨日11月3日は文化の日。日本では祝日でした。この日には文化勲章の叙勲受章者が発表されます。今年の外国人受章者に、オーストラリアの元首相、ボブ・ホークの名前がありました。

 

ホーク元首相は、1983年から1991年まで労働党政権を担い、歴代首相の中でも人気の高い首相です。彼はもともと、ACTU(オーストラリア労働組合評議会)という労働組合の代表を務めていて、労働運動を率いた実力者が政界入りして首相になったわけです。

 

当時オーストラリアは労働者の権利意識が高く(いまでもそうですが)、組合の力も強くて頻繁にストライキが起きていました。オーストラリアはストが多い国というイメージがありました。ところがホーク首相の誕生で組合活動がどうなるか注目されましたが、政府と組合と企業との三者による協議機関の設置で、いわば労使協調路線を進めて、それほど大きなストがなくなっていきました。

 

今回、カンタス航空の労組によるストライキと、会社によるロックアウトは、久しぶりの全国的なストとして大きな影響を与え、その被害はかなりなものになりました。

 

なにせカンタス航空のCEOの給与が71%、200万ドルアップして500万ドルに、という話しですから、社員でなくてもなんでそんなに高額なの?と怒るのも当たり前かもしれませんが、もちろんストライキはそんな単純な話しではありません。

 

いま、世界の航空業界は、グローバル化の影響を受けて、格安航空会社の参入と大手航空会社の提携・合併による業界再編が進行しています。

 

カンタス航空もナショナルフラッグの地位に安住しているわけにはいかないのです。JALがそうであったように、抜本的な改革をしないと生き残れないのが現状です。そこでカンタス航空のアラン・ジョイスCEOが打ち出したのが、アジアへのシフトと1,000人の人員削減です。

 

アジアを拠点にして新会社を設立し、さらに人員確保による経費の削減、収益の改善を図るのですが、もちろん組合は猛反発しました。

 

ただカンタス航空の現状は、国際線に関しては年間2億ドルの損失が出ているわけで、なんとかしないといけないわけです。会社の再建策と改革案が、組合に受け入れられるかどうかというお決まりの労使対決です。

 

そういってしまえば、それでおしまいなのですが、実はその裏には、ストライキを強行している組合代表の政界進出への野望や、今回評価を上げたヴァージン航空のCEOとの因縁話など、面白い話しがあるのです。

 

トニー・シェルドン運輸労連書記長は、労働党の代表の座を狙っていて、今回のストライキにより会社側から譲歩を得れば、それを手土産に代表の座を獲得するのではというのです。

 

また、2年前のカンタス航空の役員会では、次期CEOの座を巡って、当時ジェットスターのトップだったジョイス氏か、カンタス生え抜きのジョン・ボーゲッティ氏か、どちらが適任かと討議され、結局ジョイス氏がトップの座を得たのです。

 

敗れたボーゲッティ氏はカンタスを離れて、ヴァージン・ブルーのトップになりました。その後、バージン航空の国際線部門を任されて、欧米路線の開拓などに手腕を発揮しています。また、労使関係も良く、争議も起きていません。

 

そのうえ、ストで飛べなくなった人たちを優先的に振り替え搭乗させて株を上げたヴァージンですから、ジョイス氏とボーゲッティ氏のふたりは、今回のスト騒ぎで明暗を分けた形になりました。

 

さて、政府も介入していったん収まったストとロックアウトですが、お互いに協議の場につくということが決まっただけで、何も解決はしていません。今後、どうなるのか注目されますが、世界的にLCC(格安航空会社)の進出は避けられず、カンタスの命運がかかる改革案の成り行きが非常に気になりますね。

 

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