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第3回 ワイン・メーカー 三澤 彩奈さん

造り込まずナチュラルさを大事にしたい…。

控えめで繊細なワインが造れたらいいと思っています。

実家が山梨県のワイナリーということもあり、家業を手伝うなかで子供の頃から自然とモノを造るという仕事に憧れていました。その頃はまさか自分が本当にワイン・メーカーになれるとは思っていなかったんですが、実際に挑戦しようと思い始めたのは今から5年ほど前、23歳の時です。アジア圏で唯一のワイン専用品種である「甲州」というブドウにものすごく可能性を感じたのがきっかけです。甲州はシャルドネなどの品種と根本は同じなので、将来性の見込める甲州のワ インが造れたらいいなと思ったんです。実は、私が小さい頃、周りでは「甲州からいいワインなんて絶対できない」と言われていたようです。でも私の父は甲州に期待していて、日本で買うとひとつ13万円もする、オーク材でできた高価な樽を使っていました。「甲州にそんな高価な樽を使うなんて」と疑問に思う人が多かったなか、父だけはその可能性を信じていたんです。だから私も子供ながらに甲州に期待していたんです。勝沼にフランスのボルドー大学から先生が来てお話する機会があったんですが、その時にも甲州という品種のすごさをあらためて感じました。さらにもうひとつ決定的だったのは、マレーシアを訪れた時。現地の高級なホテルで甲州のワインを召し上がっていたヨーロッパ系とアジア系のカップルが、「このワインは日本っぽくていいわね」と言っていたのを耳にし、日本を表現できる甲州という品種に人生をかけてみてもいいんじゃないかと思い、ワイン造りの道に進む決心をしたんです。

その後2005年から3年間フランスに渡り、ボルドー大学でワイン醸造を学びました。渡仏当初は大変な時期もありましたが、独自の文化や人々の個性、そして歴史があり、慣れてくると住み心地のいい国だと思えるようになりました。卒業と同時にテイスターのディプロマを取得し、その後1年通った技術者専門の学校で技術者の資格も取得しました。日本に帰国後、ブドウ品種の栽培学が進んでいる南アフリカに1ヵ月滞在し、世界から注目されているその栽培学を学びました。また去年はニュージーランド南東のワイバラでお仕事させていただきました。2009年は念願のオーストラリアを訪れることができ、ハンター・バレーや マーガレット・リバーで働きました。この2月から約4ヵ月間オーストラリアに滞在するなかで、元気なオーストラリア・ワインの可能性を感じました。個人的にはマーガレット・リバーの「Cullen」、「Woodlands」、ハンター・バレーの「Brokenwood」がお勧めです。厳選されていて価格とのバランスもよく、クオリティが安定しているというのが当初のオーストラリア・ワインに対するイメージでした。フランス・ワインのように、心を打たれるようなワインもあれば価格に見合わないものもある、というギャップがないんですね。実際オーストラリアを訪れて感心したことは、西オーストラリアのように歴史が浅く、またハンターバレーのように決して恵まれてるとはいえない気候のなかでも、ものすごく品質のいいワインを造っているということです。オーストラリアの栽培学が日本に少なからず影響を及ぼしているという事実を学べたこともうれしかったです。今まで海外のワイナリーで外国人と一緒に働くなかで、刺激を受けることも多々ありましたし、難しいなと感じたこともあります。考え方も違うし、日本特有の「場の空気を読む」という習慣も通用しません。自分の出した選択の答えや考え方を、きちんと理論立てて明確に説明しないといけないので、今ではスタッフとケンカもするし、すごく鍛えられましたね。

ワイン・メーカーというのはほとんどが醸造場の仕事です。畑から摘まれてきたブドウを見て、今年はどういうワインを造るのか、ブドウの粒を選別し果汁を絞る時の割合など、自分の造りたいワインに向かって選択していくことが主な仕事になります。私は、自分が持つ何かを「モノ」に還元できるのが造り手の醍醐味なんだと思っています。造り込まずナチュラルさを大事にすることを心がけています。ガツンと前に出るよりも、一歩引いているような控えめで繊細なワインを 造れたらいいと思っています。甲州でいいワインを造るのか、甲州の品種を世界に広めるのか、今後どういうかたちで自分が貢献できるのかまだわかりませんが、甲州を将来必ず世界で注目を浴びる品種のひとつにすることが私の使命なのかなと思っています。

 

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