法律/ビザ

【第3回】家族や帰国のトラブル支援はある?ハーグ条約を学ぼう

国際化が進むにつれて世界中の国境を越えた移動や国際結婚が増加する中、それに伴い、子どもを持ったのち、一方の親が国境を越えて子どもを連れ去ってしまうことが大きな問題となっています。一時帰国や離婚などの理由があっても、国境を越えて子どもをもう一方の親の承諾を得ないまま連れ去った場合、「ハーグ条約」の対象になる可能性も。

この連載では、国境を越えた子どもの連れ去りによっておこるさまざまな悪影響から、子どもの利益を守ることを目的として定められた「ハーグ条約」について、『外務省ハーグ条約室(日本中央当局)』監修のもと、全4回にわたって詳しくご紹介しています。

第1回は「ハーグ条約の大まかな概要」と「ハーグ条約の手続きの流れ」、第2回は「ハーグ条約適用の対象とされた場合の対策や支援」と「家庭内に問題を抱えている時の相談先」に焦点を当てた内容でした。

第3回は、その「ハーグ条約」の対象となる可能性がある方、または当事者になってしまった方の他、国際結婚の家族関係で問題を抱えている方や子どもを連れて日本帰国を考えている方が受けられる支援についてご案内します。

家族関係や帰国のトラブルに関する国際的な支援は、現在さまざま用意されています。今現在は当事者でなくとも、自分自身や未来の家族のためにも「ハーグ条約」について正しい知識を身につけましょう。

家族関係や帰国のトラブルを支援するオーストラリアの社会福祉サービスと在外公館

オーストラリアは社会福祉が発達しているので、社会福祉サービスの多くを無料もしくは低額でも受けることが可能です。現在オーストラリアに住み、家族関係の問題に悩んでいる場合、オーストラリアの社会福祉サービスを利用して国内で問題解決を図ることにより、子どもの連れ去りや「ハーグ条約」への抵触を未然に防ぐことにつながります。

オーストラリアの社会福祉サービス

家族関係の問題を解決する支援先として、お住まいのエリアによって以下のような社会福祉サービスを利用することができます。

  1. カウンセリング(Counseling / Family Therapy):家族関係の問題を解決する手助けや、家族のことで個人的に抱えている問題が深刻化することを防ぐ糸口になるサービス。
  2. 家族の紛争解決(Family Dispute Resolution):家族の別居やパートナーとの離婚の話し合いの場を、裁判所の外でも設けられるサービス。FDRの専門家が、カップルの間に入って話し合いを進めてくれます。
  3. 法的な助言(Legal Advice):日本の家族法とは異なるオーストラリアの家族法に基づき、法律の専門家が家族の別居やパートナーとの離婚の相談に乗ってくれるサービス。
    例えば、日本では離婚した場合に子どもと同居する親が単独親権を持つことが多く、別居や離婚の際に困難な思いをする方も少なくありません。一方、オーストラリアでは親の離婚後も共同養育を続けることを理想とし、共同親権を持つことが一般的。各国の法的に可能なこと、不可能なことを法律の専門家に相談することは有用でしょう。
    オーストラリアにはさまざまな民間法律扶助センター(Community Legal Centre)や、その分野の専門家が無償で公益のために行うプロボノ(Pro-Bono)制度があり、それぞれ無料の法律相談が可能です。
  4. 法律扶助・リーガルエイド(Legal Aid):(3)と重なる部分もありますが、無償もしくは低額で、別居後の養育のあり方(Parenting Plan)を含めた多岐に渡る法律相談を受けられるサービス。各州に多数のNPO団体が存在します。
  5. DV支援機関(Domestic Violence Support Organization):DV被害を受けている場合の相談および支援機関。オーストラリアは各州に多くのDV支援機関があり、そのうちの在日外国人女性支援サービス(Immigrant Women’s Support Services)は外務省(日本中央当局)とも協力している団体。
    月曜日、火曜日の午後9時から午後4時まで、および金曜日の午後1時から午後4時までの間に07-3846-3490へ電話すると、日本人職員に相談することができます。それ以外の時間帯も日本語通訳を介して支援を受けることができます。

オーストラリアの在外公館

オーストラリアには日本の大使館、領事館、領事事務所と併せて6つの公館があります。各公館では領事サービスを提供しており、オーストラリアに住む日本人からの相談を受け付けています。

オーストラリア生活において、国際結婚や国際離婚による子どもの問題のほか、何らかの事件や事故被害、DVや家族問題など困ったことがあれば、以下の在外公館へすぐに相談することをお勧めします。在外公館では、担当エリアの社会福祉サービスに関する情報も得ることができます。

※受付時間は全て現地時間です。

在オーストラリア日本国大使館

所在地:112 Empire Circuit, Yarralumla ACT 2600 Australia
電話:(02) 6273-3244
受付時間:月~金 9:00 -12:30、13:30- 17:00、土日祝休(緊急の場合は24時間対応)
領事窓口時間:月~金 9:00 – 12:00、14:00 – 16:30、土日祝休
メール:consular@cb.mofa.go.jp(領事部)
ウェブ:www.au.emb-japan.go.jp/itprtop_ja/index.html

在シドニー日本国領事館

所在地:Level 12, 1 O’Connell Street, Sydney NSW 2000 Australia
電話:(02) 9250-1000
受付時間:月~金 9:00 -12:30、13:30- 17:30、土日祝休
メール:cgryoji@sy.mofa.go.jp
ウェブ:www.sydney.au.emb-japan.go.jp/itprtop_ja/index.html

在パース日本国総領事館

所在地:U22 / Level 2, 111 Colin Street, West Perth, WA 6005, Australia (P.O. Box 1915, West Perth WA 6872)
電話:(08) 9480-1800
受付時間:月~金 9:00 – 16:00、土日祝休
メール:consular@pt.mofa.go.jp
ウェブ:www.perth.au.emb-japan.go.jp/itprtop_ja/index.html

在ブリスベン日本国総領事館

所在地:Level 17, 12 Creek Street, Brisbane, Queensland 4000, Australia
電話:(07) 3221-5188
受付時間:月~金 9:00 – 12:00、13:30- 16:00、土日祝休
メール:consular@bb.mofa.go.jp
ウェブ:www.brisbane.au.emb-japan.go.jp/itprtop_ja/index.html
ブリスベンのDV被害者支援関連ページ:www.brisbane.au.emb-japan.go.jp/downloads/dvinfo21102020.pdf

在メルボルン日本国総領事館

所在地:Level 25, 570 Bourke Street, Melbourne, VIC 3000, Australia
電話:(03) 9679-4510
受付時間:月~金 9:00 – 12:30、14:00- 16:00、土日祝休
メール:Japanese-consulate@mb.mofa.go.jp
ウェブ:www.melbourne.au.emb-japan.go.jp/itprtop_ja/index.html

在ケアンズ領事事務所

「ハーグ条約」当事者が支援を受けられる日本のサービス

もう一方の親の同意なく子どもをオーストラリアから日本に連れ去るなどして「ハーグ条約」の当事者になった場合、日本で受けられる支援も用意されています。

当事者同士または第三者を介した話し合いの支援

日本に帰国している際に「ハーグ条約」に抵触してしまったら、以下のようなサービスを利用して当事者同士または第三者を介した話し合いをすることにより、裁判に入る前に問題解決を図ることが望めます。

日本弁護士連合会:日本の法律全般に関する弁護士紹介を受けることが可能。「ハーグ条約」についての相談も受け付けています。

「ハーグ条約」のための弁護士紹介窓口:日本弁護士連合会の中でも、東京三弁護士会、大阪弁護士会、沖縄弁護士会には「ハーグ条約」専門の弁護士を紹介してくれる窓口があります。

裁判外紛争解決手続き(Alternative Dispute Resolution):「ハーグ条約」の当事者同士でスムーズな話し合いができない場合、第三者を介した話し合いのために外務省(中央当局)の支援を受けて手続きすることも可能。裁判の外で話し合いの場を設け、法律の専門家や臨床心理士などが斡旋人として仲介してくれます。ADRの支援を受けるには、外務省(日本中央当局)の援助決定が必要です。

日本での面会交流支援機関の紹介

また、外務省ハーグ条約室(日本中央当局)から子どもの返還援助または子どもとの面会交流援助を受けている全ての当事者であれば、以下の日本で面会交流支援を受けることが可能です。

面会交流支援事業:専門家の立ち会いのもと、子どもと別居している親が対面もしくはオンラインによる面会交流。支援を受けるには外務省(日本中央当局)の援助決定が必要です。

翻訳支援

当事者同士または第三者を介した話し合いでの問題解決が望めない場合、「ハーグ条約実施法」に基づいた裁判のための家庭裁判所への提出書類について、外務省ハーグ条約室(日本中央当局)が一定限度まで日本語翻訳の支援を受け付けています。書類翻訳の支援を受けるには、外務省(日本中央当局)の援助決定が必要です。

日本で「ハーグ条約」について不明な点がある場合は、まず外務省ハーグ条約室(日本中央当局)に問い合わせることをお勧めします。

所在地:〒100-8919 東京都千代田区霞ヶ関2-2-1
電話:+81-3-5501-8466
受付時間:月〜金 9:00 – 12:30、13:30 – 17:00(日本時間)/土日祝休

メール:hagueconventionjapan@mofa.go.jp
ウェブ:www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/hague/index.html

【第3回】「家族や帰国のトラブル支援はある?ハーグ条約を学ぼう」のまとめ

一方の親の同意のない子どもの連れ去りは、その子どもにとって生活環境が急変するのみならず、他方の親族との交流が強制的に断絶されてしまう他、異なる言語や文化にも対応せざるを得ないなど、大きな影響を与える可能性があります。

「ハーグ条約」の対象となる可能性があり、当事者になってしまった場合のために、「ハーグ条約」について正しい知識を身に付けておくとともに、国際結婚の家族関係で問題を抱えている方や子どもを連れて日本帰国を考えている方は、無理を押さず、オーストラリア国内の社会福祉サービスを利用しましょう。

「ハーグ条約」の仕組みを振り返り

「ハーグ条約」は、① 監護権の侵害を伴う ② 16歳未満の子どもの ③ 条約締約国間の国境を越えた移動を適用対象とし、子どもを元の居住国に迅速に返還するための手続きや、国境を越えた親子の面会交流を実現するための締約国間の協力について定めています。

  1. 子どもの年齢が16歳未満であること。
  2. 子どもが元いた国と現在いる国の両方が、「ハーグ条約」の締約国であること。
  3. 監護の権利が侵害されていること。
    不法な連れ去り:子どもを監護する権利を持っている親の同意がないのに、もう一方の親が子どもを黙って国外に移動させる。
    留置:約束の期限を過ぎても子どもを元いた国に帰さない。

「ハーグ条約」の仕組みや手続きなどで不明な点がある場合は、下記の『外務省ハーグ条約室』へ相談することができます。

【今回紹介した支援団体の参照ページ・サイト】
日本の民事法律制度の詳細について:日本司法支援センター(通称:法テラス)公式ウェブサイト
在外公館で入手できる具体的な情報提供支援の一覧:在外公館における情報提供・支援

外務省ハーグ条約室(日本中央当局)

所在地:〒100-8919 東京都千代田区霞ヶ関2-2-1
電話:+81-3-5501-8466
受付時間:月〜金 9:00 – 12:30、13:30 – 17:00(日本時間)/土日祝休

メール:hagueconventionjapan@mofa.go.jp
ウェブ:www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/hague/index.html

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