グルメ

さて……、「オーストラリア料理」について考えましょうか?

「オーストラリアの代表的な料理って何?」日本で周りの人からよく聞かれた質問に対して、在豪10カ月目でも未だに答えが見つからない。

一応ウィキペディアの「Iconic Foods」の項目には、アンザック・ビスケット、ラミントン、ティムタム…と、それっぽいお菓子が並ぶものの、いわゆる「日本=寿司」に匹敵するオーストラリアならではのメインディッシュとなると、なかなかしっくり来る答えは見つかりません。あったとしても、フィッシュ&チップスみたいにイギリス色満載なものしか思い浮かびません。

ずるい答え方のひとつは、「多文化のオーストラリアではエスニック料理が広く浸透している」というもの。確かにメルボルンやシドニーなどの大都市ではあらゆる民族料理店が群雄割拠するかのごとく街に点在し、市内で食べられる料理の種類に関しては世界でもピカイチです。

Uber Eatsのアプリを開けば、日本食やイタリアンなどの定番をはじめ、ベトナム料理、アフリカ料理、ポルトガル料理……と、どこまでスクロールしてもカテゴリーが果てしなく続き、もはや毎日が“ワールド・フード・フェスティバル”状態。

チーズひとつとっても、ヨーロッパの王道チーズが豊富に揃い、比較的安価で手に入るのはもちろんですが、それ以上に日本ではなかなかお目にかかれないチーズも数多くあったり、なかなか興味深いのです。

例えば地中海料理には欠かせないハロウミ(Halloumi)。加熱しても溶けないタイプのチーズで、グリルして食べる時のあの“モキュッ”とした食感はたまりません。

またレバニーズレストランでシャンクリーシュ(Shanklish)というアラブのチーズを初めて口にした時、これまで口にしたことのあるチーズにはない味の濃さと、トッピングのトマトとネギとの奇跡のハーモニーに衝撃を受けたことは忘れられません。後日、レストランにシャンクリーシュだけ買いに行ったほどでした。

スーパーのチーズコーナー。これでもほんの一部。

昨日の夕飯はコリアン・フライドチキン、今日はインドカレー、明日はポキボウル…、と日替わりで各国料理を満喫しながらも、やはり疑問に思うのです。じゃあ結局オーストラリアには本当にユニークな食文化はないんだろうか。多文化がそのまま混在するただのカオス空間に過ぎないのだろうか。

こんなモヤモヤが、湯呑みの底の茶葉の如くかすかに心に積もりゆく中、「SUSHI」の看板の下に並ぶ寿司ロールを見て、最近気づいたことがあります。
そういえば、こっちの「SUSHI」って日本の寿司と違うくないか?

確かにどこの寿司ショップでも、ショーケースを陣取っているのは、縦に並べられた高さ10センチほどの巻き寿司で、シャリの上に刺身が乗ったいわゆる「お寿司」は、枝豆などのおつまみポジションへと格下げされてしまっています。

もしかして日本人とオーストラリア人が想像する寿司って違うんじゃないか、という予感がしてオージーの友人に聞いて見たところ、やはり「巻き寿司=スタンダードな寿司」だと思っていたとのこと。

というかそもそも、マクドナルドと同じ感覚でフードコートにお寿司のチェーン店が並んでいること自体、ちょっと日本とは違うと思うんです。日本でお寿司と言うと、回転寿司やハレの日のご馳走など、どちらかといえばテーブルについて醤油をつけながら箸で食べるイメージですが、ここでは学生やビジネスパーソンが長めの巻き寿司を片手にパソコンをいじるという光景はさして珍しものではありません。

「オーストラリア料理」なるものはないにせよ、オーストラリア独特の食文化はこういうところにあるんじゃないでしょうか。確かに「SUSHI」と言う単語が意味する基本的なコンセプトは同じでありながら、巻き寿司が主流になることで、ファストフードの寿司、という日本にはない食べ方が流行る。食文化を「食べ物を取り巻く体験」という大きな視点で見たとき、これは完全に日本とは異なるものだと思います。

寿司だけではありません。インドのダール(豆の煮込み)や中東のホムス(ひよこ豆のディップ)は、しばしばベジタリアン・ヴィーガンメニューとして「国籍」にかかわらず幅広くカフェのメニューなどに取り入れられています。さまざまな料理が、民族文化という枠を超え人々の生活に自然に浸透しており、オリジナルとは少し違うオーストラリア独自の意味合いを帯びながら、新たな可能性を芽吹かせるのです。

確かに固有の伝統を守っていくのも大事ですが、それらの原色をパレットの小部屋からひとつずつ取り出して思い切って混ぜてみる実験は、それぞれの文化の持ち寄りが前提となっているオーストラリアだからできること。そうやってできあがった微妙な色合いこそが、小部屋に残るどの原色絵の具とも異なる「オーストラリア色」なのではないでしょうか。

なんて考えながら、ウールワースで買ったホムススプレッドに人参スティックをダイブさせ、本場のホムスも食べてみたいなあ、とオーストラリアからアラブ世界に思いを馳せるのでした。

 

文:和田野 澪

この記事をシェアする

この投稿者の記事一覧

概要・お問い合わせ

その他の記事はこちら