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教育/留学/習い事

その17 [恐怖の交渉③]

Y子

31歳。ものごとをあんまり深く考えていないのでストレスは少ない。自分の身に危険が迫ると恐怖のあまり脳がヒートしてしまい、笑い出してしまうクセがある。以前バンジージャンプをした時、飛び降りた瞬間からケラケラ笑っていた。お化け屋敷でも笑い出すので、お化けにビックリされてしまう。19歳でメイクアップアーティストに憧れて専門門学校へ。その後ファッションショーなどの現場で働くが、給料が安すぎて、家の電気、ガス、水道を止められる。それでもコンビニのトイレや銭湯に通いながら粘り強く続けるが、毎日ツナ缶だけで生活していたため、体重が40kgを切ってしまい最後は栄養失調で倒れてしまうという経験を持つ。彼氏ができると何よりも優先してしまうため友達はほぼいないという残念なタイプ。現在セカンドWHでシドニー滞在中。

きらめくサザンクロス、張りつめた空気…

あなたは本当に偉大な人だと思う。故郷(イラク)から遠く離れたこの土地で手広くビジネスを広げここまでやってきたのだから。そのために今までに異国の地でどれだけ苦労をしたことだろう。酸いも甘いも知り尽くし、今では曲がりなりにも一国一城の主じゃないですか。そんなあなたがこんな姑息な手を使うのですか。そうやって今まで這い上がってきたのでしょうか…。彼の言葉を聞きながらただただ、アッパレと思ってしまった。しかし、私も自分の身に降りかかっている火の粉を見ながらただアッパレなどと言っている場合ではないのですよ。私だって30年間、ただ流れに身を任せて生きてきたわけじゃあないのよ(多分)。『今晩俺と過ごせ』だと? あなたの脅しに乗るほど、単純じゃあないのです。だが、拒否するにもただ単に“イヤだ”では納得はしないだろう。どうしたものか…。しばらく考えたあと、彼に質問をした。『あなたは本当にA子が好きなの?』と聞くと彼はYESと答えた。すかさず『じゃあ、行かない』と言った。 『私が行かなければA子は悲しむでしょう。そんな彼女の姿を見てあなたはうれしいの?』 『それに、このことを私が彼女に告げたり、私をクビにしたりしたらあなたはこの先絶対に彼女を手にいれることはできないと思う』さらにたたみかけた。 『このことは絶対に彼女には言わないから、あなたも今言ったことを取り消してほしい』 星がきらめくスタンソープの夜に、張り詰めた空気が流れた。(ここは標高が高く、夏の時期でも毎朝霜が降りるほど冷え込むのだ。)大魔人は何か考えている様子だったので、間髪を入れずさらに続けた。『今はあなたと何もしたくない。でももし、この先私があなたを好きになったらその時は私から誘う』と、つたない英語で言い放つと同時に身体中に悪寒が走った。身震いしてしまいこれは明日風邪をひくかもしれないと思った。だからといって余裕があった訳ではない。冷静な自分を保たなければ、泣き出し(笑い出し)そうなほど恐ろしかったのだ。このヒンヤリとした空気、それだけでもビビッてしまう。ビビッていることを気づかれて彼のペースに持っていかれたら終わりだ。あぁ…、もうこれでクビになるかもしれない。セカンドをゲットできずに、1年で日本へ帰国しなければいけないかもしれない…。いや、大魔人も一人の生身の人間だ。きっと好きな人を悲しませたくないはず。それに子供がいるのだ、少しくらいは良心というものを持っているだろう。すると大魔人はあの時と同じようにニヤリと笑った。 『OK。明日、荷物をまとめてガトンに帰ってこい、だけど、定番作業をさせるからには実力がないと認めない。覚悟しろ』 そう言い残し、帰っていった。どのくらいの時間が過ぎたのだろう、彼が去ったあとも動けずに突っ立っていた。心配したシェアメイトが家の中へ連れていってくれたが、言葉が出てこない。なんとか切り抜けたみたいだ。我に返った私の足はガクガクと震え出した。怖かった…。しかもなんてことを言ってしまったんだろう。これでガトンに戻っても彼の標的になること間違いなしだ。もう寝ることもできず、せっせと荷作りを始めた。そして翌日風邪をひいた。

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