【NSW8日】 シドニー北部ビーチで発生した男性の死亡事故を受け、NSW州政府は一部ビーチで進めていたサメ防護網の撤去試験を即時中止した。今回の決定により、サメ防護網の有効性や環境への影響をめぐる長年の議論が再燃している。
事件は土曜日の朝、ディーワイのロングリーフ・ビーチ沖で発生。57歳のマーキュリー・プシラキス氏が、サメに襲われ死亡した。体長3.4~3.6mのホオジロザメとみられている。プシラキス氏は最後の瞬間まで仲間にサメの接近を知らせ、人々に水から上がるよう警告したとされ、「真のヒーロー」と称えられている。
ロングリーフとディーワイのビーチは閉鎖されたままであり、今回の事故は2022年2月にリトルベイ沖で英国人ダイビングインストラクターのサイモン・ネリスト氏が死亡して以来、シドニーで2件目のサメによる死亡事故となった。
当時ディーワイ・ビーチにはサメ防護網が設置されていたが、ロングリーフはドラムライン方式を採用していた。事故のわずか1週間前、例年通りニューカッスルからウーロンゴンにかけて人気の高い51か所のビーチに、サメ防護網が展開されたばかりのこと。NSW州政府は一部ビーチでの防護網撤去試験を計画していたが、クリス・ミンズ州首相はプシラキス氏の死亡を受け、一次調査報告が出るまで試験を中止すると発表した。
地元自治体からの候補ビーチ選定が遅れていたこともあり、試験は停滞気味だった。ノーザンビーチのスー・ハインズ市長は「州政府の調査を歓迎し、可能な限り協力する」と述べた上で、「議論は避けられないが、今は悲しみに暮れる地域社会を支えることが最優先だ」と語った。
ミンズ州首相は「拙速な判断はしない。報告を受けてから次の段階を決める」と強調。セントラル・コーストのジャレッド・ライト市議も「防護網があるビーチでの事故は珍しいが、それは幸運による面が大きい」と述べ、最新技術の導入を検討すべきだと訴えた。
近年は、ドローン監視やサメの位置を知らせるリスニング・ステーション、タグ付けして沖合に放流するSMARTドラムラインなど、非致死的な代替策が導入されている。専門家は「サメは生態系維持に不可欠」と強調している。
サメ防護網は1930年代後半からオーストラリアで使用されている。長さ約150メートル、深さ6メートルの網が人気ビーチ沖500メートルに設置され、接近するサメを阻止する仕組みだが、効果については疑問視されている。現在、防護網を使用しているのはNSW州とQLD州のみ。NSW州では9月から4月にかけて設置され、QLD州では年間を通じて86か所のビーチに設置されている。
研究では、網の有無による咬傷率に大きな差はないとされ、むしろ網に絡まった生物がサメを岸に引き寄せる可能性も指摘されているほか、環境面での影響も大きい。2024~25年シーズンには、233匹の動物が網にかかり、そのうち標的とされたサメはわずか11%。網にかかった生物の93%は非対象種で、その62%が死亡している。ウミガメやイルカ、絶滅危惧種を含む多くの非対象生物が犠牲になっており、環境負荷が大きいとの批判も強い。
環境保護団体や科学者は、最新技術による非致死的対策を推進している。
ただし、SMARTドラムラインも万能ではなく、気象条件や昼間にしか稼働できないなどの制約がある。またサメとの遭遇自体が稀であるため、有効性の測定も難しい。
西オーストラリア大学オーシャンズ研究所のマーク・ミーカン氏は「サメは単なる頂点捕食者ではなく、栄養循環や生態系バランスを維持する上で不可欠な存在だ」とも指摘している。
ソース:new.com.au – NSW suspends shark net removal trial following Northern Beaches fatality